2014年度 活動レポート 第15号:韓山師範学院 呉雲影

修了者・教員らからの声 第15号

多彩な環境と日本文化を研修した2週間
呉雲影(Wu YunYing)

呉雲影(Wu YunYing)
韓山師範学院陶磁学部学部長

さくらサイエンスプログラム実施内容について

研修した大学 大同大学
招へいされた人 韓山師範学院学生18名と教員2名
実施した期間 2014年11月17日~30日
 

1.交流計画の主な内容

今回の活動は、化学部副主任呉雲影教授、物理・電気学部林浩岳講師が引率し、韓山師範学院物理・電子工学部、化学部、数学・応用数学部、コンピューター応用・技術学部、生物学部等から合計18名の学生が大同大学で研修した。

11月17日早朝、総勢20名は韓山師範学院東区校門に集合し出発、およそ15時間をかけて愛知県の名古屋国際空港に到着した。大同大学の松木孝文教員らが出迎えてくださり、ホテルへ向かう途中、お互いに簡単な自己紹介をしながら、打ち解け合い、第一印象は良好であった。

11月18日、私たちの研修スケジュールが本格始動した。大同大学に到着すると、学生課の先生方より短期研修プログラムの概要及び滞在中の注意事項について説明を受けた。続いて、大学内の図書館、休憩室、教室、体育館等を案内してもらい、大同大学や日本の学生の生活スタイルなどおおよそは理解することができた。

昼食後、大嶋和彦副学長が自ら、名古屋市内の観光名所を案内してくださり、名古屋の交通や建築についても詳しく説明してくださった。学生たちにとっては、これほど身近に日本の特色ある文化に触れることがなかったため、興奮冷めやらなかった。

オリエンテーション後、本学のキャンパス見学

ウェルカムパーティーにて交流を深めました

11月19日、私たちは大同大学の先生に案内いただき、大江破砕工場を見学、どのように燃えないごみ、粗大ごみを処理し、資源ごみ、燃えるごみ、燃えないごみを仕分けしているかについて学んだ。
工場の責任者が、燃えないごみの処理方法、収集、粉砕、分類までの過程を、模型を用い実演し示してくれた。

次に、大同大学の澤岡昭学長の『日本の宇宙開発―はやぶさ奇跡の生還』特別講演を聴講し、学生たちは学長と積極的に意見交換を重ね、学長も学生の質問に熱心に誠実に答えてくださった。

午後は名古屋市科学館と大須観音を見学した。名古屋市科学館では最新の科学技術及び「生命」、「生活」、「地球」をテーマとした科学展示が行われていた。また、大須観音からは日本文化の息吹を感じ、大須の様々な文化融合の魅力に溢れていた。

学長講演にて宇宙の話に聞き入る皆さん

大江破砕工場にてごみ処理過程を見学

11月20日、『日本文化の形』と『数理造形講義と生活雑貨設計』を学習し、日本の伝統造形の多くが時間空間により、変化に富んだ複雑な形容を呈していることを知り、授業では各種造形の由来や日本伝統文化との関係について学んだ。
学生らは習得した知識をもとに生活雑貨をデザインし、それをレーザー加工機で加工し作品に作り上げた。

11月21日、『燃料バッテリー製作体験』をした。燃料バッテリーは水酸化物から電気エネルギーを生み、水分しか排出しないため、環境保護に適したエネルギーである。学生たちは燃料バッテリーの原理と仕組みをしっかりと理解したうえで、自ら手作りした燃料バッテリーで電気エネルギーを発生させ、ファンユニットを動かすという、大変貴重な体験をしたのである。

午後からは汚水処理場を見学した。案内スタッフは工場が目標に掲げる『信頼、環境、貢献』を強調し、環境を傷めないことで人々に貢献していると説明してくれた。汚水処理は、濃縮処理後に脱水し焼却、汚泥を燃やした灰でセメントを作り、最後は緑化や緑地建設に用いられるというプロセスを辿っていた。
次に鉄道館を見学し、学生らは東海道新幹線の高レベルな鉄道技術をシミュレーターや模型などで体験しながら学んだ。

11月22日、500年近い歴史がある国宝犬山城を訪ねた。日本の文化と現地の風情を堪能し、移動中には秋の美しい紅葉もめでた。午後は明治村を見学、明治時代の建築等歴史資料を展示する開放型博物館で、多くの重要な文化遺産を見ることができる。

11月23日は自由活動だった。学生たちはグループに分かれ日本の生活や文化を自ら体験し、夕方には交流会を開き、その日に学んだこと、感じたことの報告会をした。

11月24日は、『水道はどういうしくみか』の授業で、堀内将人、棚橋秀行両先生が日本の浄水処理方法を紹介してくださり、油で汚染された土地の浄化方法について説明を受けると、学生たちはその一部を実習により体験することができた。
次は『インク除去体験』の授業で、インク除去や紙のリサイクルの原理を学び、紙ごみを減らすことが温暖化対策の重要な要素であると知った。さらに「消耗文化革命」を目標とした再生紙及び再印刷技術が紹介され、大気圧放電から作られるオゾンを利用してインクを除去する実験を体験した。

午後の授業は『においとは何か』で、岩橋尊嗣先生が人の嗅覚システム、人類のにおいを判別する機能、味覚と嗅覚の関係、不快なにおいを除去する方法について解説してくださった。学生らは臭いにおいを除去するプロセスを体験し、においが消える不思議さを学んだ。

11月25日、うなぎパイ工場での生産工程を見学。原料を混ぜるところから、焼き、包装まで、すべての工程が自動化されており、整然と行われている。透明ガラス越しに安全な食品加工の実態を見ることできた。

午後は楽器博物館を見学した。館内には様々な年代の楽器が種類も豊富に展示されていた。体験コーナーもあり、学生たちは演奏してみたり、各楽器の音が出る原理に興味を示してみたり、音の醍醐味を楽しんでいた。

11月26日、『商品価格の決め方』の授業では、小澤茂樹先生が商品の価格の決め方について解説してくださり、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで買い物をしながら、商品の価格差がなぜ起こるのかを考え討論した。
日本の代表的な食べ物である「たこやき」を作り、どのようにしたら商品価格を抑えられるか、いかに効率的によりおいしい食べ物を作るかを体験し、経営の本質を学び、日本の学生とも交流を図った。

午後はホンダ工場を見学した。ホンダの自動車の溶接や組み立て等、高品質の車の生産プロセスを学んだ。ホンダの生産プロセスは厳格で、すべて注文順に生産され、どのモデルも1台も在庫を出さない、1本のねじも無駄にしない。
注文により各種部品の数量はしっかり決まっており、その通りに部品を投入すればいい。生産プロセス全体に無駄がなく、プロセス間のつながりもよい。さらに自動化生成ロボットにより、最高の効率で基準にかなう自動車が生産されていく。その現場を目の当たりにした時間であった。

11月27日、『カバーのデザインと試作』の授業では、横山先生の指導のもと、生活雑貨を設計及び製作した。ソフトウェアでデザインした型紙を用いて、真空成型機でカバーを製作。学生たちは好きなカバーを設計及び製作し、最後に評価しあい、最も優れ好評であったデザインを選んだ。

午後は日本最大のトマト加工企業、カゴメ記念館を見学した。創立者 蟹江一太郎とカゴメの歴史について学び、トマトケチャップの生産ラインを見学した。カゴメはトマトを植え付けから梱包まですべて自社で行っている。
こうしてトマトの品質を完全に厳格なコントロール下においている。カゴメの支社はすべて、緯度との関連からトマト生産に適した国にあり、これによりトマトの品質を保ち、かつこれらの国でもトマトは好まれており、結果その製品はさらによく売れることになる。

次に、大手ビールメーカーのキリンビール名古屋工場を見学した。各種先進技術を用いた自動化生産ライン及び厳格な品質管理を特長とする。学生らはビール生産の工程を学び、ビール発酵のプロセスを知り、日本のビール文化を体感した。

11月28日、『音の電子信号』の授業では、担当の大石弥幸先生が「音とは何か」を起点に、音声をどのように電子化し、コンピューターや簡単なソフトウェアを用いどのように音声を聞いたり加工したりするかについてわかりやすく説明してくださった。音声と視覚はともに人類にとって大切な感覚である。現在のコンピューターや携帯電話は電子信号により各種音声情報を処理している。

以上が研修全体の概要である。その内容は非常に豊富である上に、研修計画の時間配分も綿密で合理的で、学生たちは短い時間の中で名古屋の豊かな文化に触れることができた。午後に修了式が行われ、修了証が手渡され、学生たちは日本の学生の終業式の式次第や礼儀を体験できた。
夕方にはまとめが行われ、研修生、先生らが終業の挨拶を行い、今回の研修視察に対する高い評価を述べられた。

修了式にて記念撮影

フェアウェルパーティーにて最後の交流

2.交流プロジェクトのまとめ

(1)日本の教育

今回の研修で最も印象深かったのは、日本人の教育、文化の継承が非常に優れている点であった。今回の行程では戸外見学の大部分が工場で行われたが、驚いたのは、ちょっとした工場でも見学者専用の通路があり、さらに図、模型、映像など多様な方式で工場の運営原理を示していたことである。

トヨタ工場では、一定時間内にねじを締めるとか、部品を指示通りに配置するなどのゲーム的体験コーナーも設けられており、見学者はライン上の作業員の作業技術、会社の求める技能レベル、作業の難しさを体感することができる。
こうした取り組みは、見学者にまず視覚から強い好奇心を持ってもらうことで、自然に工場の運営原理を理解させ、かつ深い印象をも与えることになる。結果的に、教科書にある単純な理論解説よりはるかに効果が高いと言える。

工場以外でも、多くの博物館、科学館、楽器館、鉄道館では、見学者を大きな科学技術の大洋に、歴史の大殿堂にいざない、各博物館が古代から現代まで、内部から外部までその分野の発展と原理を充分に示している。
例えば科学館の3階には電器展覧館があり、日常目にする道具、電器などが、見学者が構造の詳細を内部まで見られるように加工されていた。

これらはすべて本物の電器を分解したもので、「科学技術は身近にある」という感覚を持ってもらえるよう考えられている。これは小さな子供にとってとても重要である。いろいろな科学技術の原理を抽象的に理解していなくても、すべては一目瞭然、遊びながら学ぶ、素晴らしい教育方式である。
見学中に居合わせたある子供がとてもはしゃぎながら、よくある科学的原理を親も子も体験しながら学んでいた、とてもいい雰囲気であった。

(2)日本の交通

私たちが研修を受けた名古屋では、人々は通勤に主に地下鉄や電車を使う。日本の大都市の鉄道交通網は密度がとても高く、各種交通路線のアクセスが良く、さらに便数も多いので、大変便利である。
列車の時間も正確で、最初は私たちも慣れなかったが、後にこの時間が正確なことの素晴らしさを知った。

例えば今日、明日の計画を綿密に決めることができる。電車はいっときも遅れることなく、時間通りに乗り降りできるため、私たちは計画通りに目的地に着くことができる。とても規律ある毎日が過ごせるのだ。

日本の交通でもう一つ深く印象に残ったことがある。日本人は交通規則を良く守り、徒歩でも、車でも、自転車やバイクでも、信号を守っている。無理な横断をする歩行者もほとんど見ることがなく、皆横断歩道でじっと信号を待つ。
また日本の信号機も特徴的で、時間になると、十字路の四方向とも横断できるようになり、その時は人が横断するのみで、四方向の車はどれも止まらなければならない。歩行者は道路を斜め向かいに横断することもできるのだ。

このような歩行者優先の道路により、歩行者は信号待ちや横断の時間を短縮できるばかりでなく、歩行者の安全にも大きく寄与している。運転者もマナーがよく、自主的に歩行者に道を譲る。こうしたよい交通習慣は、人々が小さい頃から受けてきた交通規則教育と、社会、団体が交通規則の普及に力を入れているが所以のものである。

(3)日本の習慣

今回、日本人の礼儀正しさにも深い感銘を受けた。ホテル、レストラン、地下鉄等で大声で騒ぐ人もおらず、並ぶべき所では並び、待つべき所では待ち、何事にも秩序がある。エスカレーターでは、皆習慣的に左側に立ち、右側は急ぐ人のために空けている。
最初、研修生たちは気づかなかったのだが、あとでその事情を知ると、皆もすぐにこの「習慣」に融け込んだ。

その時、私は社会風紀の重要性を身に染みて感じた。根本の環境がよければ、人々は良い習慣が自然と身に付き、このような無形の制約が社会全体の人の素質を高めていくのである。
今回の研修はとてもよく計画されており、研修内容も豊富で、学生たちは国外で人と関わることへの術を知り、日本の文化と民族精神への理解を深めることができた。
また、集団の中で自らの自立心を鍛え、同時に学生間での協力意識も強められ、とてもすばらしい国際交流計画であった。