2014年度 活動レポート 第151号:帯広畜産大学原虫病研究センター

2014年度活動レポート(一般公募コース)第151号

中国・山東農業大学との共同研究

帯広畜産大学原虫病研究センター・教授・井上昇

帯広畜産大学原虫病研究センターは、中国・山東農業大学からWang Guiha博士を招へいし、11月1日から11月21日まで、原虫病研究センターにおいて、原虫の遺伝子解析や試験管内培養について学びました。

研究を実施した帯広畜産大学原虫病研究センター

本共同研究はWang博士の現在の上司である、Cheng Ziqiang教授が原虫病研究センターで実施したJICA長期研修コース「食の安全のための人畜共通感染症対策」に2009年10月25日から2010年8月27日までの約10ヵ月間参加したことから始まりました。

本共同研究の目指す成果は、中国を含むアジア全域やアフリカ・中南米でヒトや家畜に健康被害や生産性の低下など、甚大な被害を与え続けている原虫病に対して有効な対策、たとえば臨床現場で簡単に使用できる簡易診断法(イムノクロマトグラフィー法)の開発です。

研修ではまずはじめに、原虫病研究センターの若手教員1名と特任研究員2名が主導した、原虫病研究の基礎となる原虫の試験管内培養法の見学、原虫からのゲノムDNA抽出、PCR法による原虫遺伝子の増幅とプラスミドへのサブクローニング、クローニングしたPCR産物の遺伝子配列解析に関する実習を実施しました。

実験室で性能試験中の簡易診断法(イムノクロマトグラフィー法)

パッケージ化した簡易診断法。写真中下の2本ラインが現れた場合が陽性判定


「実習では原虫病に対する診断法の開発において必須の、組み換え原虫タンパク質の作製に必須な実験技術の基本を体験することができ、有意義であった」と、Wang先生が感想を述べておられました。

3週間の研修では研究成果を得ることは難しいが、Wang先生が所属する山東農業大学の研究室では今のところあまり今回実習で体験した、分子生物学的な手法を用いた病原体の研究は行っていないため、将来積極的に、今回学んだ新しい技術を研究に導入したいと抱負を語っておられました。

基礎的な手法を実習で学んだ後、現在原虫病研究センターで開発している、トリパノソーマ病血清診断用イムノクロマトグラフィー法を作製する装置の見学や、試作したイムノクロマトグラフィー法の概略説明を行いました。イムノクロマトグラフィー法の開発には数年を要するため、今回の研修では出来上がった試作品についての説明のみでしたが、実物を手にしての説明で、Wang先生に具体的な開発のイメージを伝えることができたと思います。

血液に寄生するトリパノソーマ(写真中の細長い単細胞生物)

研修の中盤では一泊二日で札幌を訪問し、新札幌の青少年科学館と北海道大学博物館を見学しました。青少年科学館は展示が小~中学生向けだったため、Wang先生には若干物足りない様子でした。

一方、北海道大学博物館では所蔵されている多くの動植物、化石、鉱物等の標本を見学し、同大学の歴史や日本の自然科学研究の歴史の一端を垣間見ることができたようです。

3週間という研修期間中に一定の成果を得るような研究は難しいと思いますが、共同研究のきっかけ作りとしてとらえると、十分有意義な研修であったと思います。