さくらサイエンス・ハイスクールプログラム(SSHP) 京都大学コース
工学の最前線を体感!ベトナムの高校生が京都大学・桂キャンパスへ
「さくらサイエンス・ハイスクールプログラム(SSHP)京都大学コース」に参加した、ベトナムのギフテッドスクールから選抜された高校生9名と引率教員1名。プログラム2日目の9月9日は、工学研究の拠点である京都大学桂キャンパスを訪れました。
午前は理工化学科、電気電子工学科、物理工学科の研究室を訪問。午後は地球工学科国際コース(ICP)の模擬講義や学生との交流に参加したほか、構造、風洞、水理の各実験室を巡りました。さまざまな実験や研究者との対話を通して、工学研究が社会の課題解決にどのように生かされているのかを学びました。
■理工化学科――研究者がつくった装置に興味津々
高校生たちは3つのグループに分かれ、分光装置、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)、マイクロ波伝導度測定装置など、物質の性質や挙動を調べるさまざまな研究機器を見学しました。
特に関心を集めたのが、物質の表面を極めて小さなスケールで調べる原子間力顕微鏡です。高校生から仕組みについて質問が出ると、案内役の博士課程の学生がホワイトボードを使い、微小な探針とレーザーによって表面形状を測定する仕組みを説明しました。
さらに高校生たちの目を引いたのが、研究室で独自に製作された測定装置です。案内した博士課程の学生は、「これは非常に珍しい装置です。かなり自作されているため、日本にも2、3台とないかもしれません」と説明。この装置で試料を測定するため、日本全国から研究者が訪れることもあるといいます。化学に関心を持つ生徒は、この珍しい装置を実際に見ることができた喜びを「すばらしい体験でした」と振り返りました。
■電気電子工学科――磁石が宙に浮いた!
米澤進吾教授と池田敦俊助教から説明を受け、超伝導による磁気浮上を体験しました。
液体窒素で冷却した超伝導体の数センチ上に磁石が浮くと、高校生たちの表情が一変。目を大きく見開き、思わず両手を頭にのせる生徒もいました。
説明されたのは、超伝導体から磁束が排除される「マイスナー効果」などによって起こる現象です。その後、高校生たちは順番に浮いている磁石を箸で押し、その磁力の強さを体感。押しても落ちずに浮いたままの磁石を自分の手で確かめると、笑顔で写真や動画を撮る姿も見られました。「モノが浮くなんて、こんなこと初めてみました」とすっかり興奮した様子でした。
■物理工学科――計算から「最適な形」を導き出す
西脇眞二教授の研究室で、博士課程2年の学生から「トポロジー最適化」について説明を受けました。トポロジー最適化とは、求められる性能を満たすために、設計する領域のどこに材料を配置すればよいのかを計算によって導き出す手法です。例えば橋梁部材では、重い荷重を安全に支える強度を保ちながら、使用する材料を減らす設計につなげることができます。また、流体や熱の動きを制御する装置、次世代電池として期待される全固体電池への応用可能性についても紹介されました。
数学や物理の知識が、実際のものづくりや新しい技術の開発にどう結びついていくのか。高校生たちは、その研究の一端に触れました。
■英語で土木工学を学ぶ「地球工学科国際コース(ICP)」
北根安雄教授から、地球工学科国際コース(ICP)について説明を受けました。ICPでは、土木工学コースにほぼ準じたカリキュラムを英語で学ぶことができ、社会基盤の整備やマネジメント、防災などについて学び、国際的に活躍できる技術者の育成を目指しています。
土木工学が対象とするのは、橋や建物などの構造物だけではありません。地盤工学、水理学、都市計画など、人々の暮らしを支える社会基盤と環境に関わる幅広い分野について学びます。また、国内外の建設現場での実習を含む国際インターンシップなど、実践的な学びについても紹介されました。
北根教授は高校生たちに、「言葉の壁を乗り越えることで、世界で活躍できる人材へと成長できます」と語りかけました。
■「自然というサイコロ」を考える模擬講義と学生交流
KIM Sunmin准教授による模擬講義を受講しました。テーマは、「統計解析と水文設計」です。
京都の年間降水量のデータを使い、確率や統計分布について学んだ後、洪水から街を守るための施設をどのように設計するのかを学びました。
高校生たちも講義を聞くだけではありません。平均や標準偏差、再現期間などについての問いに答えながら参加しました。講義の中で、気候変動についてKIM准教授は、印象的な言葉で説明しました。
「私たちは”自然というサイコロ“を扱っています。しかし、気候変動によってサイコロの形が少しずつ変わっています。変化する自然に合わせて、私たちの手法も適応させなければなりません」
■構造・風・水――3つの実験室を巡る
構造実験室、風洞実験室、水理実験室を順に見学しました。
<構造実験室:張凱淳准教授>
橋などの構造物の安全性をどのように調べるのかについて説明を受けました。走行する車両と橋梁の相互作用を調べる装置の実演では、高校生の一人が装置に力を加えると、その振動をセンサーが検出。リアルタイムで記録される様子を全員で確認しました。
<風洞実験室:松宮央登准教授>
小型の橋梁模型や風洞実験、数値解析を使い、橋が風に対してどのように応答するのかを調べる研究について説明を受けました。橋と風の関係を考える代表的な例として、1940年に起きた米国の旧タコマ橋(タコマナローズ橋)の崩落事故も紹介されました。
続いて大型の風洞装置が動き出すと、高校生たちは発生した風を全身で体験。風の強さや、装置が生み出せる最大風速について質問が飛び出しました。
<水理実験室:音田慎一郎准教授>
砂を敷いた細長い実験水路に、橋脚に見立てた金属製の柱を置いて水を流すと、柱の土台の周囲の砂が少しずつ掘られていきました。高校生たちは水路に顔を近づけ、砂の動きをじっと観察しました。
続いて上流から赤いインクを流し、柱の周囲を水がどのように流れているのかを確認しました。
さらに、柱の上流側に金属製の棒を横向きに置くと、水の流れが変わり、砂床に現れる模様も変化しました。再び赤いインクを流し、棒を置く前後で水の流れがどのように変わるのかを観察しました。
■ノーベル賞・フィールズ賞受賞者の足跡をたどる
一日の最後は、船井哲良記念講堂にあるノーベル賞・フィールズ賞受賞者展示コーナーへ。
高校生たちは、一人でじっくり展示を読んだり、小さなグループで集まって話し合ったりしながら、京都大学にゆかりのある研究者や数学者の業績を見て回りました。
研究室に入り、研究者や学生と直接言葉を交わし、実験を間近で見て自分の手で確かめる。高校生たちにとって、教科書で学んできた「科学」と、社会を支える「工学研究」とがしっかりと結びつく一日となりました。