さくらサイエンス・ハイスクールプログラム(SSHP) 京都大学コース
ベトナムの理数系トップ高校生が京都大学で最先端科学を体験
9月8日(火)、「さくらサイエンス・ハイスクールプログラム(SSHP)京都大学コース」に参加するベトナムの高校生9名と引率教員1名が、京都大学吉田キャンパスを訪問しました。生徒たちは、京都大学の研究者や学生との交流、キャンパスツアー、iPS細胞研究所(CiRA)の体験型プログラムと研究室見学、大学院理学研究科での模擬講義と実験に参加しました。
引率教員のNguyen Ha Sam氏によると、ギフテッドスクールの入学試験は競争率が高く、合格者は受験者の約6~7%にとどまるとのこと。生徒たちは早い時期から自分の得意分野を磨き、多くの場合、15歳頃までには将来学びたい分野や目標を考え始めているといいます。
*ギフテッドスクール:数学、物理、化学、生物、文学、英語など、特定分野に高い能力を持つ生徒に高度な教育を行う学校。
■科学技術への情熱で結ばれた9人
吉田国際交流会館で行われたオリエンテーションでは、京都大学の國府寛司理事・副学長が一行を歓迎しました。國府理事・副学長は、京都大学が大切にしてきた「自由の学風」について、既成概念や他人の意見に流されず、自ら問いを立て、真理を追究することに責任を持つ姿勢であると説明。さらに、生徒たちに研究施設や研究活動に触れ、学生や研究者と積極的に対話するよう呼びかけ、「『なぜだろう』『もっと知るにはどうすればよいだろう』と、自分自身に問いかけてください」と語りました。
生徒代表として挨拶に立った高校生は、「私たちはベトナムのさまざまな学校や地域から集まりましたが、科学技術への情熱で結ばれています」と述べ、講義や交流を通じて新しい知識と視点を得たいと抱負を語りました。
その後の自己紹介では、一人ひとりが専門分野と将来の目標を英語で発表しました。生徒たちの関心は、有機化学、物理化学、天文学・宇宙物理学、数学、エレクトロニクス、海洋生物学、バイオインフォマティクス、ロボット工学、医学など多岐にわたります。中には、「医学の知識と科学研究を組み合わせ、神経疾患や精神疾患について研究したい」「自律システムやロボット工学を学び、社会に役立つ技術を開発したい」など、将来の目標を具体的に語る生徒もいました。一人ひとりの自己紹介からは、専門的な関心を持ちながら、新しい分野にも踏み出そうとする意欲が伝わってきました。
■歴史ある吉田キャンパスを歩く
あいにくの大雨の中、キャンパスツアーでは、一行は本部構内へ移動し、クスノキと『百周年時計台記念館』の前で集合写真を撮影しました。歴史展示室では、大学の歩みや昔の学生生活を伝える資料、キャンパス模型などを見学しました。生徒たちは展示の前で足を止め、写真を撮りながら広いキャンパスを歩きました。
【参加高校生の声】
- 一日の中で大学そのものが特に印象に残り、その広さと美しさに驚きました。
- 日本は競争が激しく、暮らすにはストレスの多い場所だと思っていました。でも実際に来てみると、京都はとても落ち着いた場所です。静かで、景色も美しく、勉強し、くつろぐのにとてもよい場所だと感じています。
■京都大学で学ぶ先輩たちとの交流
京都大学と『Kyoto iUP』の概要説明に続き、京都大学で学ぶベトナム出身の学生3名が、自身の学びや学生生活についてベトナム語で紹介しました。生徒たちは、自分たちと似た背景を持つ先輩の経験に注意深く耳を傾けました。
交流では、生徒たちが2つのグループに分かれ、勉強時間や生活費、学生寮、入学の準備、高校と大学の学び方の違いなどを次々に質問しました。物理学を学ぶ大学院生とは、研究テーマをめぐって話が弾みました。昼食の時間が近づいても質問は途切れず、その後も一緒に食事をしながら交流を深めました。
■iPS細胞から医療の未来を考える
午後、一行は京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を訪問しました。CiRA研究推進室のKelvin Hui副室長から説明を受け、iPS細胞の仕組みや研究の最前線について学びました。
体験型プログラムでは、通常の細胞に「山中因子」と呼ばれる4つの因子を導入し、多様な細胞へ変化できる状態に初期化するiPS細胞の仕組みを学びました。また、再生医療だけでなく、病気の仕組みの解明や創薬にも活用されていることが、パーキンソン病、がん、ALSなどの例とともに紹介されました。
細胞観察クイズでは、心筋細胞、脳細胞、筋細胞、膵臓の細胞、iPS細胞の顕微鏡画像を見て、どの細胞かを推測しました。研究室の見学では、顕微鏡やインキュベーター、PCR装置、細胞分析装置などを熱心に観察。Hui副室長の説明は、科学や医療の可能性だけでなく、画期的な治療法を、それを必要とする患者へどのように届けていくのかという課題にも及びました。
【参加高校生の声】
- わたしは、物理学が得意で、生物学には苦手意識があり、iPS細胞について学ぶのは難しいだろうと思っていたといました。しかし、分かりやすい説明と研究所内の見学を通じて、生物学への印象が変わりました。いまは、生物学はそれほど理解しにくいものではないと感じています。学ぼうとする気持ちなのだと思いました。
- 成熟した細胞をいったん初期化し、そこからさまざまな細胞へと変化させられるiPS細胞の仕組みに驚きました。本当に巧みな仕組みで、医学のさまざまな分野に応用できると思います。
■数式が目の前の現象に変わる
続いて、一行は京都大学大学院理学研究科を訪れ、石岡圭一教授による地球流体力学の模擬講義と実験に参加しました。地球流体力学は、地球内部、火山、海洋循環、惑星大気などで起きる流体現象を研究する学問です。石岡教授は、渦の動きや木星の雲の帯に似た模様などを例に、数値実験が自然界の流れを理解するうえでどのように役立つかを説明しました。 講義では微積分や偏微分方程式も登場し、その難しさに生徒たちから笑いが起きる場面もありました。石岡教授は概念を平易な言葉で説明し、数学を恐れる必要はないと励ましました。
続く回転水槽の実験では、生徒たちは水槽に入れたインクや土がどのように動くかを予想した後、自ら実験に参加して結果を確かめました。予想が当たって喜ぶ生徒がいる一方、思いがけない動きに驚きの声も上がりました。
【参加高校生の声】
- 参加型の実験で面白かったです。直感だけでは説明できない、とても不思議な結論に数学からたどり着けることが分かりました。
- ベトナムでは実験の機会がほとんどなく、紙の上で学ぶことが多いので、実験を実際に見ることは、とても勉強になります。
■将来の選択肢を広げた一日
この日、生徒たちは、京都大学で学ぶ先輩と語り、iPS細胞研究の現場に触れ、数式で示された現象を自らの手で確かめました。物理学を専門とする生徒が生物学への関心を深め、化学を学ぶ生徒が物理実験に驚くなど、それぞれの専門分野を越えて好奇心を広げる一日となりました。/p>
もともとオーストラリアへの留学を考えていた高校生は、この日の活動を通じて日本の教育の質や留学環境を知り、考えが少し変わったといいます。「日本で学ぶことも検討するかもしれません」と話しました。大学の環境や研究設備に触れ、同じベトナム出身の学生から学び方や生活について直接聞けたことで、日本留学が将来の選択肢の一つとなりました。
歓迎の挨拶では、生徒たちに「なぜだろう」「もっと知るにはどうすればよいだろう」と自分自身に問いかけることの大切さが伝えられました。高校生たちは研究者や学生と語り、細胞を観察し、回転する水槽を囲みながら、自分なりの答えを探していました。京都大学での一日は、新しい知識を得るだけでなく、自分が将来学ぶ場所と進む道を考える貴重な機会となりました。