2026年度活動レポート(一般公募プログラム)第2号 (Bコース)
スピントロニクス技術を利用した脳型情報ハードウェアの開発
九州工業大学大学院情報工学研究院物理情報工学研究系
教授 福間 康裕さんからの報告
九州工業大学は、令和8年7月22日から8月11日までの21日間、さくらサイエンスプログラムにより、インドのアミティ大学ノイダ校(教員1名、大学院生1名、大学生1名)、石油エネルギー研究大学(大学院生2名)、アショカ大学(大学院生2名)から合計7名を招へいし、共同研究活動を実施した。
本プログラムでは、次世代の計算技術として近年注目を集めている「リザバー計算(reservoir computing)」をテーマに共同研究を実施した。従来のニューラルネットワークは、多数の人工ニューロンを複雑に結線し、その結合強度(重み)を学習によって最適化することで情報処理を行うが、ネットワーク規模の拡大に伴って学習に要する計算コストが飛躍的に増大するという課題を抱えている。これに対しリザバー計算では、ネットワークの大部分(リザバー層)の結合を固定したまま出力層のみを学習させることで、学習コストを大幅に低減できることが知られている。中でも「物理リザバー(physical reservoir)」は、磁性体をはじめとする複雑な物理系が本来持つ非線形性や時間的なダイナミクスを、そのまま計算資源として直接利用することで、計算に要する消費エネルギーの大幅な削減を目指す新しい技術候補である。
来日に先立ち、7月6日および7日の2日間、オンラインによる事前オリエンテーションを実施した。オリエンテーションでは、本プログラムの目的および日程を説明したほか、九州工業大学および招へい各大学の教員・ポスドク研究員が講義を行い、来日後に実施する共同研究の内容について打合せを行った。物理リザバーには様々な磁化ダイナミクスを利用できることから、来日前に各グループで試料を準備し、それらの磁化ダイナミクスを検出してリザバー計算を行った。
【7月22日】
オリエンテーション、九州工業大学のキャンパスツアー、参加者全員の自己・研究紹介、そして意見交換会を行った。意見交換会では、研究内容のみならず、お互いの食文化や学生生活等、学生間の交流を活発に行った。
【7月23日~31日】
超高真空薄膜作製装置を利用した試料作製や磁化ダイナミクスを電気的に検出するためにクリーンルーム内にて微細加工を行った。
【8月1日~5日】
ネットワークアナライザやオシロスコープを利用して磁化ダイナミクスを測定した。得られた実験データを利用して、MNISTデータベースの手書き数字の分類処理を行った。4日には、招へい教員が「Advances in Spintronics for Energy-Efficient Computing」という題目にて大学院生向けの講演を行った。
【8月6日~8日】
山口大学工学部を訪問し、施設の見学やワークショップを行った。8日には、招へい者が得られた研究成果や本プログラムでの体験や印象について発表会を行った。
本プログラムの特徴は、最先端のデバイス研究環境(大学連携研究設備ネットワークや学内共同研究設備)を活用して、電子デバイス作製から電気・磁気的特性評価までの一貫した実習を行っている点である。アジア諸国において経済発展とともに科学技術は進展しているものの、最先端の作製技術および評価技術を有する研究機関は極めて限られている。日本の恵まれた研究環境とものづくりを体験することで、海外から優秀な若手人材の流入が期待される。
学生同士は日常、教育研究、文化・慣習、観光など多岐にわたり幅広い交流を行った。7月22日の意見交換会では、研究内容のみならず、お互いの食文化や学生生活等についても学生間で活発に語り合った。週末には、大宰府天満宮見学、小倉城見学、温泉体験、厳島神社見学、広島平和記念資料館見学等を行い、招へい者には多くの日本文化に触れる機会を設けた。本プログラムを通じて、招へい者と本学学生・教員との間で今後の共同研究に向けた積極的な議論が行われた。本さくらサイエンスプログラムは、受け入れ・送り出し双方の研究機関にとって有益な活動となった。