2025年度活動レポート(一般公募プログラム)第54号 (Cコース)
ジェンダー多様性と持続可能な社会の融合に向けた未来の法律家のセミナー
名古屋大学からの報告
本プログラムへの支援を受けて、名古屋大学の法学研究科と法政国際教育協力研究センター(以下、CALE)は、2026年2月に、タシケント国立法科大学(ウズベキスタン)、モンゴル国立大学(モンゴル)、ハノイ法科大学(ベトナム)、カンボジア王立法経大学(カンボジア)の法学部3年生を選抜し、合計20名を本セミナーへ招へいしました。彼らは現地の大学で法学を学習すると同時に、日本語と日本法を2年程学習しております。
1)法に関する基本的な考え方に関連したテーマに基づいた講義の受講および日本人と受入学生によるグループディスカッション
本プログラムでは、次のような講義や演習、ディスカッションを提供しました。
- 「刑事訴訟法」
- 「弁護士業務の現場」
- 「民事訴訟法」
- 「労働法」
- 「企業法務」
- 「民事訴訟法」
- ジェンダー多様性に関するグループディスカッション
- 名古屋大学学生とのグループディスカッション
- 大垣東高校生徒とのグループディスカッション
この研修は、未来の法律家の養成を目的としております。法律家にとって大事なことは、法制度をその目的や歴史性に照らして批判的に評価する能力です。こうした能力があって、変化する状況に対応する形で法制度を運用することができます。
このプログラムで受け入れた学生の出身国は、(旧)社会主義諸圏であり、その法制度や歴史は日本とは大きく異なります。また、他の(旧)社会主義圏の国の制度とも比較することによって、受け入れ学生は自国の制度から距離を置いて観る視点を養います。同様の効果は、受け入れ学生と交流する日本人学生にとってもあります。
上記➀では、名古屋大学大学院法学研究科助教の大畑先生が、刑法を講義しました。刑法は刑事裁判の要となる法律です。まずは、刑法の基本的な考え方を講義しつつ、その中で、明治以来、日本の刑法がどのようにしてドイツの考え方に影響を受けているのかという論点を盛り込む形にしました。そのうえで、日本特有の刑事事件の状況(近時の特殊詐欺事件や警察官の職務怠慢による事件)も講義しました。これらの事例も踏まえて、各国の受け入れ学生がディスカッションを行いました。自国の前提は、自国だけで学習しているとなかなか相対化できません。この講義・討論によってそうした前提を見直すよい機会になりました。
また、上記⑦では、教材を用いて、各国の婚姻制度、とりわけ、どのような事情があれば、婚姻できないのかという問題を議論しました。婚姻など家族制度は、ジェンダーの問題と密接に関連します。まずは、教材によって各国の違いの基本をそれぞれが確認したうえで、参加者が相互に議論することによって、共通点と相違点を認識し、多様性を学習しました。
2)法関係機関及び企業の社会見学
<訪問先>
- 名古屋地方裁判所
- 名古屋刑務所
- ソミックマネジメントホールディングス株式会社
- 矢橋ホールディングス株式会社/多文化共生館SAXIA
このプログラムでは、法が実際に運用されている現場を訪問し、見学することも実施しました。座学だけでは見えないことが、現場の人びとや現場の施設で見えてくることもあるからです。
まず、事前に訪問先のことについてリサーチし、簡単なレポートを書かせることを行いました。事前学習を通じて訪問した時の学びがより深くなります。また、実際に訪問した際にも、裁判所や刑務所の職員からの説明を受けて、どのように人権に配慮しているのか、また、どのように法が運営されているのかの様子を具体的な建物の様子を見ながら学習することができました。銀行や法律事務所でも、銀行員や弁護士から講義を受けつつ、日本の銀行や法律事務所のあり方を具体的にうかがい知ることができます。こうした映像的な記憶はすぐに言語化して反省的に捉えなおすことは難しいかもしれませんが、確実に脳裏には焼き付いており、学習しているときの大きな助けとなります。
2つの日本の企業を訪問しました。まず、ソミックは、自動車の部品の世界シェアのトップレベルの企業であり、世界各地に工場を有しております。そのようなソミックの工場も見学しつつ、法務などのバックオフィスを担う「マネジメントホールディングス」の事業内容についてのレクチャーを受けるというものです。グローバルに展開する企業の法務を垣間見ることができました。また、矢橋ホールディングスは、石灰岩の加工や木材の加工、建築・設計などで、日本のみならずベトナムでも事業展開している企業です。この会社では、多国籍な人材が活躍しております。その多文化共生館では、多文化に合わせた食事も提供されております。そうした従業員の生活面も含めた多様性の在り方を学習することができました。
3)自国の法的問題についての研究発表
また、受け入れ学生たちに発表の機会を設けました。以下が、発表テーマ一覧です。
<テーマ一覧>
代理母出産をめぐるウズベキスタンの法的空白の問題/モンゴルにおける代理母の問題/ベトナムにおける利他的代理出産/三国の刑法におけるフーリガン行為の位置づけと処罰の比較(ウズベキスタン)/家庭内暴力を行う行為の法的規制の実施に関する問題(モンゴル)/カンボジアの法律による堕胎の制限/法人に対する精神的損害賠償の問題(ウズベキスタン)/ベトナムにおける虚偽広告に関するインフルエンサー(KOL)の民事責任/カンボジア民法における悪意の受益者の損害賠償責任-不当利得と不法行為の関係を中心に/建築の二重売買の紛争を解決するための裁判所の決定の問題点(ウズベキスタン)/家庭調停に関する法律規定の問題:法律で必ず調停を行わなければならないと定めている規定の問題点(モンゴル)/カンボジア民法における抵当権制度の理論と現実/合同会社の資本金における持分の相続に関する問題(ウズベキスタン)/モンゴル民法における遺言方式の厳格性とその影響/カンボジアにおける事務管理/生成AIの学習における著作権侵害の法的責任を負う主体について(ベトナム)/ベトナムにおける音商標の保護/期間の定めのない労働契約を終わらせる正当な理由(カンボジア)/EUによるIUU漁業規制措置に対するベトナムの法的対応/ウズベキスタンにおける違法伐採の予防対策と法制度の役割
この発表には、名古屋大学大学院生、学部生、法曹関係者など含め103名が参加しました。参加者が発表者に質問を投げかけ、発表者が答えるという形式です。司会は名古屋大学の大学院生が行いました。
たとえば、モンゴルの代理母出産の報告では、モンゴルでも代理母のニーズがある旨の情況が説明され、代理母出産の規律が説明されました。この報告に対しては、そもそも母子関係を確定する民法上の規定の在り方がどうなっているのかという質問がでました(日本では、出生により母子関係が定まるので、代理した母が法律上の母となり、卵子提供者など、生物学上の要素は決定的な要素ではありません)。相互の法律上の規定の違いについてやりとりをして、各学生は、自分の研究を今後どのように深めていくのかの視点を獲得することができます。
4)ホームステイによる日本の社会と文化の体験
<受入地方自治体>
一宮市国際交流協会、幸田町国際交流協会、かにえ国際交流友の会
名古屋大学附属中学校、名古屋大学附属高等学校
受け入れ学生は2日ほどホームステイの体験も実施しました。法は、具体的な生活の中で運用されております。社会見学もそうですが、(たとえ短い期間であっても)そのような具体的な生活の中に身を置いてみないとわかりません。
食事のときの習慣、お風呂への入り方なども各国によって異なってきます。家族の会話の中にもジェンダーの在り方が、また、ゴミ出しの仕方の中に持続可能な社会への取り組みが垣間見えます。この辺りの理解は、教科書ではなく、やはり各家庭の生活の中で初めて獲得できます。
■今後の展望
この短期セミナーに参加した学生から選抜を行い、2026年9月より1年間名古屋大学に長期交換留学生として受け入れを行います。名古屋大学法学部生とともに日本語で日本法の授業を履修し、さらに多くの時間をかけ日本人学生や他の受け入れ学生と日本を含めた各国の法制度について学び、相互理解を深めていきます。将来的には、彼らは各国において弁護士、大学教員、官僚、会社の法務部門スタッフとなっていきます(名古屋大学の法学研究科に留学生としてきた者の中には、母国で大臣、外交官、最高裁判事になった方もいらっしゃいます)。
そのような彼らに以上のようなプログラムを実施していくことは、「ジェンダー多様性と持続可能な社会の融合」の育成につながっていくことになります。また、彼らは、日本に対しても、大きな学びの機会を与えてくれていることも確かです。