2024年度 活動レポート 第83号:農業・食品産業技術総合研究機構

2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第83号 (Aコース)

食料の持続的供給のための植物ウイルス病の防除・検疫について学ぶ国際交流

農業・食品産業技術総合研究機構 
研究管理役 奥田 充さんからの報告

世界の人口は2050年に約100億人に達すると予想されており、食料の持続的供給がグローバルな課題となっている。現在、作物の生産量の約3割が病気や害虫により失われている。特に、気候温暖化や貿易の拡大により植物ウイルス病及びそれを媒介する害虫の生息範囲が急速に拡大しており、その解決に向けた取り組みには我が国のみではなく、国際的な協調が重要となる。
 ワーゲニンゲン大学は、オランダの東部ヘルダーラント州にある農業に関する教育機関として世界トップレベルの大学であり、オランダでは20年間連続で最優秀大学に選定されている。また、大学と研究機関が統合することで、教育機関としてだけではなく、研究機関としても重要な役割を担っており、基礎研究から応用研究までシームレスな研究開発環境と人材育成を特徴としている。

そこでワーゲニンゲン大学ウイルス学研究室のスタッフ及び博士課程学生(合計8名)を日本に招へいし、植物ウイルス病の防除に対する日本の取り組みを、基礎研究、実用研究、社会実装、レギュレーションまでシームレスに学ぶ機会を提供するとともに、人的交流を通じて、日本とヨーロッパの植物ウイルス病に関する情報の共有及び研究連携を活性化させることを目的として「さくらサイエンスプログラム」に応募した。具体的な活動内容は以下のとおりである。

一行は、2025年3月1日オランダスキポール空港を出発し、KLM直行便で約14時間のフライトにより 3月2日に成田空港に到着した。

【3月3日】

午前、羽田空港第3ターミナルの近くにある植物防疫所羽田空港支所を訪問し、新居次長より植物防疫所の業務概要の説明を受けた後、輸入貨物の植物検疫(農作物に付着する有害な病害虫の有無の検査)の現場を見学した。午後は、東京大学農学部植物病理学研究室(東京都文京区)を訪問し、山次教授より同研究室の研究に関する概要説明を受けた後、それぞれの学生らが研究発表及び討議を行った。

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東京大学農学部植物病理学研究室にて          

【3月4日】

東京農業大学農学部 植物病理学研究室(神奈川県厚木市)を訪問した。岩波教授より厚木キャンパスの案内及び同研究室の研究に関する概要説明を受けた後、それぞれの学生らが研究発表及び討議を行った。

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東京農業大学農学部(厚木キャンパス)にて

【3月5日】

移動日を利用した文化体験として、明治神宮を参拝した。あいにくの雨天であったが、自然豊かな境内及び歴史ある社殿を見て、我が国の伝統的な神社建築の魅力と文化的重要性を体感した。

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明治神宮を参拝

【3月6日】

茨城県つくば市に移動し、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)遺伝資源研究部門を訪問し、研究用の植物ウイルスの保存技術、植物遺伝資源の保存施設等を見学した。その後、食と農の科学館を訪問し、日本農業の歴史と農研機構の主な研究成果について説明を受けた。

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農研機構遺伝資源研究部門にて

【3月7日】

午前、農研機構の支援を受けて2024年に設立された株式会社農研植物病院を訪問し、同社が担う病害虫・雑草防除に関する事業の説明を受けた。午後は、農研機構植物防疫研究部門を訪問し、研究者、学生らが研究発表及び討議を行った。

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農研機構植物防疫研究部門における研究交流

【3月8日】

早朝につくば市を後にし、「青銅製仏像」で世界一高いことで知られる牛久大仏を横目に見ながら成田空港に向かい、帰国した。

以上のように、短い期間であったが、充実したプログラムとなり、参加者の満足度も極めて高かった。さくらサイエンスプログラムは、新たな時代の社会を担う、世界の優れた人材を日本に短期間招き、日本の最先端な科学技術や文化を経験する科学技術振興機構(JST)の公募事業であり、学術的な国際交流の機会として極めて効果的である。今後も本事業により多くの若手研究者が日本を訪問し、日本の国際交流が促進されることを期待する。