2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第76号 (Bコース)
インドの大学院生が種を記載する分類学的手法を学ぶ
~長期的な共同研究への発展を目指して~
山形大学学術研究院 (理学部主担当)
助教 金尾 太輔さんからの報告
山形大学理学部では、2025年2月17日から3月7日までの19日間、送出し機関であるインド南部のケラディシヴァッパナヤカ農業園芸科学大学から修士課程の学生1名を招へいし、JSTさくらサイエンスプログラムB. 共同研究活動コースの採択課題「インドにおける好白蟻性ハネカクシの種多様性解明」を実施しました。本研究の目的は、インドにおける好白蟻性ハネカクシの種多様性解明と現地で活躍する研究者の育成です。
日本への招へい者は、送出し機関において希望があった学生の中から最も優秀な成績を収めている学生が選ばれました。招へい学生とは滞在前にメールやウェブ会議で複数回の打ち合わせを行い、滞在に必要な物品や空港での過ごし方、滞在中に行う研究内容などについて説明し、招へい学生の疑問や不安をできる限り解消しました。また、本共同研究の採用から実施までの期間が非常に限られていましたが、JSTの支援により迅速に招へい学生のビザを取得することができました。
滞在期間中、招へい学生には種を記載する分類学的手法を学んでもらいました。まず初めに、分類学的研究で最も基本的な乾燥標本と採集ラベルの作成を行いました。標本とラベルの重要性について説明し、実際に三角台紙の先端に体長 2.0 mm前後の対象昆虫を糊付けしました。標本作成後は、標本写真を撮影して深度合成写真を作成しました。
続いて、標本の解剖と近縁種との分類形質の比較を行いました。小さな昆虫の口器や交尾器の解剖には苦戦していましたが、複数個体の解剖を行い、最終的にきれいに解剖ができていました。解剖した各部位は顕微鏡下で撮影し、それぞれ深度合成写真を作成しました。その後、過去の記載論文で示されている既知種の形態情報と自ら解剖した対象種の形態を比較して種同定を試みたところ、対象種は未記載種であると判断されました。

以上の作業と並行して、基礎的な分子生物学的実験によりミトコンドリアCOI領域の塩基配列情報を読み取り、種間比較を実施しました。分子生物学的実験を行うのは初めてということで、ピペットの基本操作などからDNA抽出、PCR、CSR、シーケンスを行い、問題なくCOI配列を決定することができました。これを近縁種のCOI配列と比較して遺伝的距離を求めたところ、形態情報から得られた結論を支持する結果となりました。

滞在最終日には、滞在中に学んだことや研究の成果を発表してもらいました。発表会に参加した日本人学生からの質問もありましたが、招へい学生は問題なく回答しており、滞在中に学んだ知識が身についていることを実感しました。滞在中に撮影した写真や形態比較により記載論文の執筆に十分な成果が得られたので、今後は原稿の執筆を進め、国際誌への投稿を目指します。
滞在期間中、招へい学生には山形大学理学部生物分野の学生室を利用してもらいました。同室の日本人学生にも積極的な交流を呼びかけ、招へい学生が研究や生活に関して気軽に質問できる環境づくりに努めました。また、招へい学生と日本人学生の交流会も企画し、他の研究室の研究内容やインドと日本の文化の違いなどを学べる機会を設けました。これらは、招へい者のみならず、日本人学生にとっても日常生活で得難い英会話や国際交流の機会となりました。

さくらサイエンスプログラムによる共同研究は、招へい学生にとって実践的な研究手法を学ぶ非常に良い経験になったと思います。今後、インドにおいて本学生が分類学者へと成長し、我々との長期的な共同研究への発展とインドにおける好白蟻性昆虫の種多様性解明に貢献することが期待されます。
