2024年度 活動レポート 第43号:九州大学

2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第43号 (Bコース)

ネイチャーポジティブを推進する森林産業の創出に向けた国際フィールドワーク

九州大学からの報告

 森林は世界の陸地面積の約30%を占め、炭素循環や生物多様性保全でも重要な役割を果たしています。そのため、持続可能な森林管理の推進はSDGsの実現のためにも重要です。一方で、熱帯諸国の一部では過剰利用による森林減少・劣化の問題が続いており、逆に日本では過疎や人口減少による森林の過少利用が原因の問題も発生しています。そのような中、生物多様性の損失を止め、自然を回復軌道に乗せ反転させることを目的とする「ネイチャーポジティブ」が注目を浴びています。

 本プログラムでは、2024年9月9月(月)~20日(金)の12日間の日程で、ガジャマダ大学森林学部(インドネシア)から学部生6名、グルゴビンドシンインドラプラスタ大学環境マネジメント学部(インド)から修士課程学生1名および博士課程学生1名の計8名を招へいし、「ネイチャーポジティブを推進する森林産業の創出を考える国際フィールドワーク」を実施しました。

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 本プログラムの主な活動は以下のとおりです。

【9月9日】

 福岡空港に到着後、九州大学農学部(伊都キャンパス)へ移動し、オリエンテーションを行いました。

【9月10日】

 福岡県篠栗町で九州大学農学部附属福岡演習林を訪問し、演習林の概要について説明を受けた後、森林セラピー基地の1つにもなっている「篠栗九大の森」を訪問しました。また若杉奥之院を訪問し、森林セラピーロードを歩きながら修験道の文化についても学びました。

【9月11日~13日】

 熊本県小国町を訪問し、「SDGs未来都市」について話をうかがい、再生可能エネルギーの取り組みの現場(小水力発電所や地熱バイナリー発電など)を見学しました。南小国町では森林組合の原木市場を見学し、サステイナブルな畜産を目指す「阿蘇のあか牛・草原牛プロジェクト」についても話をうかがいました。また阿蘇の成り立ちや自然・地形の特徴を理解するために大観峰や阿蘇火山博物館も訪問しました。

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フィールドワーク中に昼食をとるインドネシア・インド・日本の学生達

【9月14日】

 福岡県うきは市のつづら棚田を訪問し、うきは市癒しの旅先案内人協会の森林セラピーガイドの案内で森林セラピーのプログラムを体験しました。

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森林セラピー体験

【9月15日】

 福岡県太宰府市で九州国立博物館・太宰府天満宮を訪問し、日本やアジアの文化について学びました。

【9月16日】

 長崎市を訪問し、長崎大学環境科学部で「長崎県の林業や地域おこし」について説明を受けた後、長崎原爆資料館や平和公園を訪問し、平和について学びました。

【9月17日~18日】

 長崎県西海市で「クアオルト健康ウオーキング」を体験した後、西海市役所でクアオルトによる地域おこしの取り組みや農林業の現状について話をうかがいました。特定非営利活動法人雪浦あんばんねでは、農泊の取り組みについて話を聞いた後、日本・インドネシア・インドの森林・林業や農山村の現状を参加者間で共有し、ネイチャーポジティブを推進する森林産業についてディスカッションを行いました。また夜は地域の集まりに呼んでいただき、地元住民と食事をしながら交流し、農林業や農泊の取り組みについても意見交換を行いました。

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農泊による地域おこしの取り組みの講義

【9月19日】

 九州大学農学部(伊都キャンパス)でフィールドワークの振り返りをした後に修了式を開催しました。

【9月20日】

 インドネシアとインドの学生達は福岡空港から帰国の途に就きました。日本人学生も一緒に空港で見送りました。

 12日間のプログラムを通じて、日本・インドネシア・インドの森林・林業や農山村の現状や課題を参加者間で共有し、ネイチャーポジティブを推進する森林産業について考えることができました。招へい学生の8名全員が初めての日本訪問で、うち7名は初めての海外渡航でした。本プログラムには、2024年8月にサマーコースでインドネシアを「ゲスト」として訪問した日本人学生も積極的に関与し、今回はインドネシアとインドの学生達を「ホスト」として迎えました。本プログラムでの交流を通じて、日本・インドネシア・インドの学生達は国境を越えた友情を育みながらハラールやビーガンといった食事など互いの宗教や文化を学び、「多様性と調和」を考える良い機会にもなりました。

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3つのテーブル(①豚肉を食べる人・②豚肉を食べられない人・③野菜しか食べない人)に分けたBBQ

 本プログラムの成果発表として「九州大学アジアウィーク2024」でセミナーを開催し、インドネシアとインドの学生達もオンラインで参加しました。

 プログラム終了後も現在まで日本・インドネシア・インドの3か国の交流は続いており、本交流事業の成果を新たな国際教育・研究プログラムの協働へと発展させていきたいと思っています。最後にこのような貴重な機会を与えていただいたJSTさくらサイエンスプログラムの関係者の皆様に深く感謝します。