2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第41号 (Aコース)
看護学生を対象とした認知症のある方への対応疑似体験プログラムの構築
各国の文化をふまえたシナリオベースインタラクション型バーチャルリアリティー
東京大学からの報告
2024年11月18日から27日の期間に、インドネシアのスラバヤ工科大学から4名、アイルランガ大学から4名の計8名の工学系および看護系の研究者と学生を招へいし、認知症のある方とのコミュニケーションと援助行動を擬似体験できるバーチャルリアリティー(VR)プログラム(以下、対応VRプログラム)の構築を目的とした交流を行った。昨今インドネシアにおいても、高齢化に伴う認知症高齢者への対応が課題であり、両国の文化や社会背景を踏まえた認知症教育手法の検討を目指す国際共同研究に向けた第一歩となるものである。
【現地視察と研究室訪問】
日本の認知症ケアの文化や社会背景を踏まえた対応VRプログラムのシナリオおよびバーチャル空間作成のために、現地視察と研究室訪問を行った。
台東区立台東病院および老人保健施設千束へ訪問し、日本の高齢者施設のケア環境を視察し、ケア専門職へ認知症のある方への対応についてインタビューを実施した。その後、文京区内の地域包括支援センターを訪問し、地域の高齢者の生活を支援する取り組みや、認知症のある方が直面する日常生活上の課題を学習した。また、地域看護学を専門とする教員の講義から、日本の医療・介護保険制度と地域包括ケアの具体的な取り組みを知った。参加者のほとんどが、これまで認知症のある方と接した機会がなく、現地視察と講義を通して認知症ケアの実態について理解を深めることができた。


さらに、東京大学の情報理工学研究科の五十嵐健夫教授や、東京大学バーチャルリアリティー教育研究センターの伊藤研一郎助教を訪問し、対応VRプログラムの技術的な議論を行った。最新の技術や研究に触れる中で、認知症のある方への共感を喚起するアバターの描写やコミュニケーション設計、メタバース空間の活用について具体的な検討を進めた。

【対応VRプログラム作成】
現地視察および研究室訪問の成果をもとに、対応VRプログラムのプロトタイプを作成および試行し、今後の課題や改良点を共有した。
作成の過程では、インドネシアの医療制度や認知症のある方に対するケアシステム、インドネシア国内でのVRの活用の実情に関する共有および意見交換を行い、インドネシアの文化や社会背景に対する理解を深めた。駐日インドネシア共和国大使館教育担当者と面会し、二国間の研究が円滑に進むように協力体制の構築に取り組んだ。今後の国際共同研究の研究費獲得に向けて、研究計画案を具体的にディスカッションした。

【プログラムを終えて】
今回の研修プログラムを通じて、インドネシアの工学系および看護系の若手研究者と学生が、日本の最先端研究や認知症ケアの実態を学び、両国の研究機関の相互理解と交流を深めることができた。今後、日本版とインドネシア版の認知症のある方への対応VRプログラムの構築を目指し、今回作成したプロトタイプのさらなる洗練を進めていく予定である。
さらに、研修プログラムに参加した工学分野の学生1名が東京大学大学院進学に向けた準備を開始しており、両国での研究発展の架け橋としての活躍が期待される。現在、競争的研究資金の獲得を目指して申請書を作成しており、国際共同研究の実施に向けて連携を強化していく予定である。
