2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第31号 (Aコース)
〈総合知〉の先駆的展開―人文学と科学技術
東京大学大学院人文社会系研究科
教授 加藤 隆宏さんからの報告
日時:2024年11月17日(日)~23日(土)
プログラム
18日(月)午前 | 歓迎の辞:納富信留(人文社会系研究科長) 特別講義「古代ギリシア・ローマ彫刻研究と3Dモデル」 芳賀京子(次世代人文学開発センター・教授) |
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18日(月)午後 | 東京大学総合図書館見学 アジア研究図書館にてレクチャー(RASARL板橋助教) |
19日(火)午前 | 特別講義「JST-MS9プロジェクト:東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地」 蓑輪顕量(インド哲学仏教学研究室・教授) |
19日(火)午後 | Well-Being/Well-Goingを考えるワークショップ 特別講義「Wellbeing of academic staff and students」 Prof. Dr. Meindert Flikkema (アムステルダム自由大学) 特別講義「ウェルビーイングとレジリエンス」 高橋美保(教育学研究科・教授) |
20日(水)午前 | 東京大学文学部の学生と意見交換会 |
20日(水)午後 | 東京大学インド人留学生会と交流会(レクチャーとディスカッション) 特別講義「Study in Japan」 Vaishnavi Thakur(工学系研究科博士課程) 特別講義「Friendship between India and Japan」 Dr. K. E. Seetharam(アジア開発銀行研究所上席研究員) |
21日(木)午前 | 人文情報学に関するレクチャーとディスカッション 塚越柚季(次世代人文学開発センター・助教) |
21日(木)午後 | 東京国立博物館・国立科学博物館見学 |
22日(金)午前 | 科研費基盤(B)「デーヴァナーガリー文字OCRの実用化と文献データベースの利活用にむけた応用研究」に関するレクチャーとディスカッション 加藤隆宏(インド哲学仏教学研究室・准教授) |
22日(金)午後 | 都内見学 |
【プログラムの概要と報告】
日印学術交流については、これまで、理工系学部が中心となって進められてきましたが、昨今のインドにおける様々な研究分野の発展などを見るに、広く人文社会系を含む総合的な学術交流が必要と考え、人文社会系研究科が受け皿となるプログラムを企画いたしました。
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部では、人文科学、社会科学分野において最先端の科学技術を応用した先端的な研究が行われています。本プログラムでは、参加者たちがこうした文理の枠組みを超えた取り組みから生み出される最先端の「総合知」に触れ、これからの人文科学や社会科学のあり方について学ぶ機会を得ることを目的とします。
今回の研修プログラムでは、人文社会系研究科で取り組まれている以下の取り組みを中心に特別講義やディスカッションを通じて多くのことを学びました。
1)「古代ギリシア・ローマ彫刻研究と3Dモデル」(芳賀京子教授)
3D技術を使ってギリシア・ローマの古代彫刻をミリ単位で蘇らせて学術利用するだけでなく、その成果を美術品の保全や博物館展示に応用していくという、世界的にも注目される研究成果の一端をご紹介いただきました。
2)JST-MS9プロジェクト「東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地」(研究代表者・今水寛教授、研究分担者・蓑輪顕量教授)
最新の脳科学と文献学にもとづく知識の融合とその社会実装についてご紹介をいただきました。
3)人文情報学部門(塚越柚季助教)
同部門で先導するデジタル・ヒューマニティーズの教育と研究について、また、現在進めておられる「ヴェーダOCR」プロジェクトについてお話をいただきました。
4)「デーヴァナーガリー文字OCRの実用化と文献データベースの利活用にむけた応用研究」(研究代表者・加藤隆宏〔招聘実施担当者〕)
AIによるディープラーニングを用いたデーヴァナーガリー文字(ヒンディー語などに使用されるインドの代表的文字)の光学文字認識アプリケーションの開発とその応用研究について紹介いたしました。
今回の研修で見学・体験したのは、いずれも人文科学・社会科学における伝統的な学問手法に最先端のテクノロジーを導入することにより、単なる文理融合を超えるような「総合知」を生み出すことが期待される研究分野です。こうした取り組みにより、人文科学・社会科学における研究はこれまでとは異なる広がりをもって展開・発展することが予想されますが、それと同時に、「総合知」の進展によって科学技術そのもののあり方が照らし返され、まったく新しい科学技術イノベーションの創出につながる可能性を秘めています。
本招へプログラムを通じて、インド側の学生たちは新しい人文科学・社会科学のあり方を考えるきっかけを得ることができました。また、プログラムの一環として実施された学生同士の文化交流会は、インド側学生のみならず、日本側の学生たちにとっても極めて貴重な学びの機会となったことでしょう。ご協力をいただいた学生の皆さんにも、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
近年のインドにおける科学技術分野の進展は目覚ましく、今後はインドが日本にとってあらゆる意味で重要なパートナーとなっていきます。欧米とは異なる独自の文化的・歴史的背景をもつ日本とインドが協力し、世界に向けて新しい価値を共に創出することが期待されます。今回の学生交流は、そうした次世代の日印パートナーシップを担う人材育成、さらには人的ネットワークの構築という意味でも大きな意義をもつものとなりました。
このような貴重な機会を与えてくださったさくらサイエンスプログラム関係者のみなさまに感謝いたします。