2024年度 活動レポート 第28号:中央大学

2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第28号 (Aコース)

日本の水資源分野における気候変動適応策

中央大学理工学部
教授 手計 太一さんからの報告

 2024年10月6日から12日までの7日間、タイ国の有力大学の一つであるカセサート大学水資源学部から7名の学生と1名の引率教員をお迎えしました。カセサート大学は1943年に創立した農業大学(カセサートは農業分野という意味)で、同国3番目に古い大学です。

 日タイともに沿岸低平地にメガシティを抱えており、河川洪水、高潮など気候変動による影響に敏感である共通点があります。本プログラムでは、日本の水資源分野における最新の気候変動適応策を学んでもらうとともに、両国の学生混成のグループが両国の課題と解決策を導き出すことを目的としました。

 訪日前のオンライン講義を通して、気候変動の実態、適応策の取組やgood practiceについて理解を深めてもらっておきました。また、訪日中に利用するアプリケーションを事前準備、利用をしてもらっておきました。そのため、訪日後すぐに実施した講義、ワークショップの方法などの説明がスムーズに進みました。

 さて、このプログラムでは、座学だけではなく、本学の実験室での簡易実験、施設体験を行いました。河川模型実験を利用した治水施設の定量的効果の計測、最新の超音波ドップラー多層流向流速計の実利用を体験してもらいました。また、津波、高潮の体感実験も実施しました。男子学生には実験施設ほぼ最大の津波を体感してもらい、全身ずぶ濡れになりながらも、真剣にその危険性を感じてくれました。

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高潮の体感実験

 さらに避難体験VRシステムを実際に体験してもらいました。学生諸氏は非常に高い感動とともに、改善点を指摘してくれました。加えて、本年1月1日の能登半島地震の再現もできる地盤系の実験室にある振動台で地震体験をしてもらいました。東日本大震災との比較を通して、防災に関する意識を高めてもらいました。

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避難体験VRシステム
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地震体験

 日本の治水対策の実践を理解してもらうために、東京都水道歴史館、環状七号線地下調整池、東京都河川港湾施設を見学しました。東京都水道歴史観では江戸から東京にいたる水資源の歴史を通して、どのようにして沿岸低地である東京が発展できたのかを学習してもらいました。バンコクの配水システムと比較して、古から圧倒的な技術レベルにあったことに、タイの学生諸氏は大変驚いていました。次に、タイの治水関係者から熱望されている地下河川、地下調整池の代表格である環状七号線地下調整池には、偶然にも小雨の降る中、見学に行きました。施設の巨大さだけではなく、繊細に運用されている点に学生諸氏から活発な質問がありました。最後に、小型船舶に乗船して日本橋川、神田川、隅田川、東京湾河口の水工施設を見学しました。

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水工施設見学

 東京の感潮域河川の堤防は高潮で計画されている点、カミソリ堤であるため景観に良くないことや河川へのアクセスを阻害し、親水面からも改善が必要な点など、これまでの経緯や歴史、そして現在の課題と今後の改善計画などを現場で説明しました。学生同士で、バンコクの河川と東京の河川の相違や良点・欠点などについて活発に議論していました。あいにく、時折大雨であり、とても寒い日でもあったものの、降雨時の水門・樋門の運用を肌身で感じてもらえる良い機会でした。

 毎日、見学や実験の後には振り返りワークということで、日タイの学生が混成した3つのグループで振り返り学習を行いました。各グループには、本学の3年生から大学院1年生までが参画しました。その上で、最後の2日間、日タイそれぞれに適応した気候変動適応施策を立案するワークショップを実施し、最終成果報告を実施しました。

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最終成果報告

 受入代表者、送出し機関代表者のみならず、公共政策法がご専門の本学法学部教授工藤裕子先生や本学で非常勤講師をお願いしている気候・気象学者の木口雅司先生にも発表を聴いていただき、議論に参加していただきました。皆さんから日タイが混成してアイディアを出している点について高く評価していただきました。

 最後に、夕食は毎日、日タイの学生たちが一緒に取っており、徐々に交流が深化していることを感じました。LINEやInstagramを通して彼らの帰国後も、継続的に交流が続いています。