2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第8号 (Bコース)
マレーシア工科大学・マレーシア日本国際工科院との共同研究プログラム
土壌流出防止および水質向上のための微細藻類バイオマス利用に関する国際共同研究
筑波大学からの報告
2024年9月8日~17日に、マレーシア工科大学(UTM)・マレーシア日本国際工科院(MJIIT)から、大学院生6名、博士研究員1名、教員2名を招へいして、B.共同研究活動コースのプログラムを実施した。本プログラムは、筑波大学とMJIITの共同学位プログラムである国際連携持続環境科学専攻の前田義昌准教授(生命環境系)がプログラム全体のデザインやコーディネーションを担当した。
気候変動の影響により、近年のマレーシアでは過去に生じていなかった災害・環境問題が深刻化している。その一つに、激しい降雨を引き金とする地滑り等による土壌流出と水質汚染が挙げられる。一度、地滑りが生じ、山肌の植物が消失すると、土壌が露出した斜面に雨水が集中し、再び地滑りが繰り返される。これに対して筑波大学とMJIITでは、微細藻類バイオマスを露出した土壌に塗布し、植物の成長を促すことで地滑りを防ぐ、バイオロジカル・ソイルクラスト(Biological Soil Crust:BSC)技術に関する共同研究を行ってきた。本プログラムでは、MJIITの学生や若手研究者を日本に招へいし、微細藻類実験の実習や研究室訪問、筑波大学生との交流や、企業訪問を通じて、筑波大学とMJIITとの国際共同研究の活性化を図った。
プログラム初日は移動日とした。2日目は微細藻類とBSC技術に関する講義を行うと共に、微細藻類産業の社会実装に関する議論を行った。その後、ハラルフードを用意した意見交換会を実施し、学生、若手研究者、教員間での交流を深めた。
3日目は、微細藻類の培養と生育のモニタリングを学ぶ実習を行った。4日目は微細藻類(アオコ)の発生が見られる霞ヶ浦を見学した後、BSC技術の社会実装に取り組む日本工営株式会社の中央研究所を訪問した。その後、筑波大学に戻り、ガラスマイクロピペットによる微細藻類単離技術の習得を行った。
5日目、6日目は、国際共同研究の重要性や、若手研究者が将来担うべきリーダーシップに関して、招へい者らと筑波大学生が、環境科学の幅広い観点から意見を出し合う討論会を行った。これにより、環境問題の解決には、自身の専門分野にとらわれることなく、広い視野を持つことの重要性を学んだ。さらに、筑波大学・国際連携持続環境科学専攻に所属する教員の最先端研究に触れる研究室訪問を実施した。招へい者らは、実際の国際共同研究の現場に触れることで、その重要性について理解を深めた。また、筑波大学関係者にとってもMJIITの学生や若手研究者の意見を聞く絶好の機会となった。
7日目はつくば市内の産業総合研究所・地質標本館、および約200年前の伝統的日本家屋を展示したさくら民家園を訪れ、先端科学と日本文化を学ぶ機会とした。8日目はつくば市内でのプログラムの最終日であり、2日目から継続してデータ収集した微細藻類の生育曲線とプログラムの印象を報告する発表会を実施した。招へい者らには、つくば市というユニークなアカデミックシティで、防災・水質向上・微細藻類をキーワードに多面的な学びの機会を得られたことが好評であった。
9日目は東京への移動日とし、最終日である10日目に、微細藻類の一種であるユーグレナ藻から多彩な製品を開発する株式会社ユーグレナ本社を訪問した。
招へいを終えて、当該研究分野における筑波大学とMJIIT間の協力体制をより強固なものとすることができたと実感している。筑波大学では2024年9月に、日本の国立大学としては初となる海外分校をマレーシアの首都クアラルンプールに開校した。そのような背景の中、同じクアラルンプールにあるMJIITとの協力関係を確固たるものとし、今後も活発な共同研究や人材交流を展開し、相互に発展することができれば幸いである。