2024年度活動レポート(一般公募プログラム)第7号 (Aコース)
農村での6次産業化による貧困改善に向けたSDGs消費者プロダクト開発実習
北九州市立大学からの報告
2024年8月22日から8月28日までの7日間に渡って、タイ王国タクシン大学の学生7名が JIRAPORN CHOMANEE講師の引率で来日しました。
北九州市立大学では、2023年5月から、国際環境工学部とタクシン大学理学部との間で、教育研究に関する覚書を取り結び、活動を続けています。今回のさくらサイエンスプログラムでの受入事業は、2024年2月24日から3月1日の間に実施したものに引き続き、第2回目となります。両大学は、SDGsとアントレプレナーシップを教育研究のテーマに掲げ、地域の産業・経済社会への貢献に取り組んでおり、それぞれの立地地域に、異なる観点からアイデアを展開することで相互に協力しています。特に、地域の未利用有機物の商業資源化は、共通のテーマであり、工学技術と事業開発・マネジメント研究の分野で、国際的な相互貢献につながるものです。
本プログラムでは、前回と同様に、大豆ミートを主原料とするソーセージ商品開発に取り組みました。大豆ミートは、食肉生産と比較してカーボン発生量を抑えることのできる「代替肉」として環境保全の観点で取り扱われてきており、健康嗜好者やビーガン市場においても広く受け入れられて、世界的に普及が進みつつある新しい食品です。今回は第2回として、特に、参加学生に対して、商品マーケティングに関する実習と座学に時間を割いて取り組ませました。なぜなら、第1回の受入プログラムの反省点として、作り手である参加学生たちは、どうしてもプロダクト・アウトの発想に立つ傾向があったためです。タイにおける農村の所得向上に資する商品開発に取り組む招へい学生たちには、「対価を支払う消費者に受入られる商品とは何か」さらには、「彼らが商品を訴求したい消費者とは、どんな人たちであるのか」を明確に定義させる必要がありました。
【事前オンライン研修】
プログラム概要説明、目的と活動内容の共有、質疑応答を行いました。参加学生の選考は、タクシン大学に依頼しました。学生の選考にあたって、学生プロジェクトとしての製品開発を含めた事業計画の秀逸さ、英語の運用能力、外国渡航が初めてであることを基準としました。大学の研究シーズを用いて大学周辺農村の所得向上に貢献する商品開発プロジェクトに取り組み、商品を形にしている学生たちが、強い動機付けを持って来日することを感じることができました。この事前研修には、カウンターパートとして参加する弊学の学生たちも参加し、簡単な自己紹介を行い受入への準備を整えました。
【初日】
下関市と北九州門司区の観光地市場では、商品調査として、価格・販促上の工夫・想定される対象消費者・選んだ理由の4項目について、3件の商品を取り上げ比較しました。そして、相互共有をさせることにより、日本における一般消費者向けの観光土産商品から洞察を得て、商品構想へ盛り込むようにしました。
【2日目】
株式会社ヤギシタのハム・ソーセージ工場を訪問視察しました。同社は、弊学との研究開発連携を通じて、健康増進に資する新素材を活用した商品開発に取り組んで居られる北九州市に立地する老舗企業です。大豆ミートを主な原料とするソーセージ商品の開発に取り組む学生たちにとっては、ソーセージ作りの基本的な工程を知る貴重な機会となりました。
午後からは、大豆ミート商品の企画を日タイ混成の学生チームで行いました。日本の消費者像を仮説ペルソナとして設定し、仮のレシピを書いて、タイから持ち寄った香辛料や材料を検討し、足りない材料を買い足して、初回の試作を実施しました。注入器を使って、羊腸へ材料を詰める作業は、参加者たちにとってはじめての事でしたが、徐々に慣れて上手にこなせるようになりました。本学の学生たちは、前回の受入の際に経験済みであったため、作業のコツを招へい学生へ伝える役を担っていました。ひと通り作成した試作品は、参加者全員で試食を行いました。香り、辛み、塩味、コク、歯ごたえなどなど、消費者側の視点で、参加学生・教員が相互に遠慮なく意見・感想、改善提案を交換し、第2試作への改善点を整理しました。
【3日目】
第2試作への材料調達、既存の農産・海産加工品の見学を兼ねて、大学キャンパス近くの地域物産店を訪問し、市場調査の機会をより充実させることとしました。店舗には、漁協関係者・農協関係者による企画商品が陳列されていました。これに、類する店舗は、タイ南部では珍しいということで、学生たちが興味を寄せて商品を手に取り、意見を交換していました。この店舗で購入した商品のいくつかは、第2試作へ活用されていました。
【4日目】
午前には、「6次産業化」事例として、観光農業の見学のため、北九州市の隣町に当たる岡垣町へ出向きました。タイ南部においては、グリーンツーリズムの普及によって、観光向け農園が開き始めて居るようですが、気候帯の要件でぶどう農園はなく、参加者にとっては初めての体験となりました。収穫の利便性を考えた棚の高さやぶどうの房の成熟具合を確認できるのぞき穴のついた包みなど、観光農園としての工夫について学ぶ機会となりました。
午後には、北九州地域の経済社会・産業の発展の文脈を学習するために、TOTOミュージアムを訪問見学しました。見学展示には、北九州地域をはじめとする日本社会の都市化の流れとそれに伴う衛生環境整備の必要性、給水授業の高まりを受けた節水技術開発の必要性を受け、北九州・小倉を創業の地とするTOTO(株)の成り立ち、歴史、先端技術に触れ、技術・商品が、社会的な要請を先取りし、受容されるように工夫して取り組まれていることを参加者たちが、改めて把握する機会となりました。
【5日目】
本プログラムの重点項目は、マーケットインの発想を参加学生たちが身に付けることです。弊学に客員教員として滞在するベトナム・フエ大学のチャウ講師の協力を得て、消費者アンケート調査と分析手法に関するレクチャーとアンケート票設計のワークショップを行いました。特に論点としたのは、「アンケート調査での失敗事例」であり、それを踏まえることで、有効な調査票の設計に取り組ませることができました。
【6日目】
大学の教職員・留学生を含めた学生、大学外の企業・市外郭団体からの参加を含め総勢52名の試食者を招き、試食会を実施しました。試作商品毎の大まかな受容性を確認するため、試食者の皆さんには、実食後に簡単な投票用紙に回答して頂きました。また、並行して、タクシン大学の学生プロジェクトによる開発商品のサンプリングとパッケージなどの印象についてのアンケート調査も実施しました。このアンケート調査は、前日のレクチャー内容を踏まえたものとなり、昨年度よりも高い洞察を得られる内容となりました。
6日目の最後は、日タイ学生チームによる開発商品に関するコンセプトと事業計画の発表会を行いました。いずれの学生チームも試作に対するフィードバックを踏まえることにより、自信がにじみ出る口頭発表となり、それを踏まえたディスカッションでも商品改善に向けて充実したやり取りがなされました。事業計画の発表会の後は、さくらサイエンスプログラム修了証の授与式に移りました。
夜には、北九州市立大学の学生を含めた参加者全員での送別会を開き、共同研究や学生間交流、留学に向けた話題について、今後に繋がる意見の交換も行いました。今回の実習ワークショップ活動は、招へい学生ばかりでなく、引率の教員にとっても楽しみと学びの場となったようです。北九州エコタウン(産業・一般廃棄物の再資源化施設)の見学についても、日本の地方都市のひとつである北九州市の環境保全と産業振興への取り組みに触れ、先進性に驚きを得たようでした。