2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第239号 (Aコース)
フィリピン・インドネシアの若手研究者・学生が体験する海域地震・津波研究・技術開発の最前線
海洋研究開発機構(JAMSTEC)からの報告
フィリピン、インドネシアは、日本と同様に地震や津波による災害が多く発生する国であり、こうした現象を理解するための科学的知見や、地震・津波からの防災に資する技術の発展は重要な課題である。今回のさくらサイエンスプログラムでは、フィリピン大学で地球科学を学ぶ学生とその指導教員、インドネシア気象気候地球物理庁(BMKG)で地震の早期警戒システムに携わっている若手技術職員を招き、海洋研究開発機構(JAMSTEC)で実施している主に地震・津波に関連する研究・技術開発の紹介とその背景に関する講義を行った。
まず、来日前の2024年1月に、フィリピン、インドネシア双方の参加者それぞれと一度ずつ、また来日直前の2月下旬には参加者全体でオンライン事前交流を行った。来日の準備状況の確認や、講義や研究紹介の内容に関する希望の聞き取りを行った。
プログラム初日は移動日で、両国からの参加者が午後に羽田空港に到着するのを出迎えた。横浜市内のホテルへ電車で移動し、翌日からのスケジュールに備えた。
2日目はJAMSTEC横須賀本部にて、JAMSTECの紹介、海域での固体地球物理調査・研究に関する講義、JAMSTECの船舶や国際深海科学掘削計画(IODP)に関する説明、先端的な実験設備の見学とそれらを用いた研究の紹介、海底地震計(OBS)の見学などを行った。
3日目はJAMSTEC横浜研究所にて、地震・津波観測監視システム(DONET)や海底地殻変動観測に関する講義と研究紹介、DONET横浜バックアップサイトの見学、地球シミュレーターの見学、地下構造探査(反射法・屈折法)に関する講義と研究紹介を行った。
4日目はJAMSTEC横浜研究所にて、南海トラフにおける最新の地下構造研究の紹介、機動的な海底地震観測研究に関する講義を行った。2024年元日に発生した能登半島地震に対する緊急調査に関しても簡単に紹介がなされた。また、この日は参加者による簡単な演習も実施した。演習は南海トラフ地下構造断面(反射断面)の解釈と、OBSデータの簡単な解析の2つの課題を準備し、参加者にどちらかを選んでもらう形で実施した。演習中は担当者が質問を受けたりアドバイスをしたりしながら進めた。
5日目は、日本科学未来館を見学した。フィリピンなどでも小規模な科学館・博物館はあるが、子供も含めて楽しめるものは無いとのことで、我々の訪問時にも多くの子供たちが来館していたことに感銘を受けたようである。
6日目は、再びJAMSTEC横浜研究所にて、演習結果の発表会、今後の協力などに関する議論の後、修了証の授与を行った。
演習発表ではそれぞれが講義を通して学んだことなどを元に解釈・解析を行った結果を発表してもらった。発表が終わった後の休憩時間にも担当した講師に熱心に質問や議論する姿が見られ、有意義な演習となったようである。
まとめの議論時には、フィリピン大学、インドネシアBMKGそれぞれが抱えている課題や今後の交流などに関する希望が示された。双方ともに、今後もオンラインでの講義などを含めて交流を継続していきたいとコメントがあった。修了証授与の後は意見交換会を開催し、参加者同士や講師陣との懇談を行った。
7日目は、両国それぞれの便で羽田空港より帰国した。双方の参加者とも、空港まで見送った担当者に感謝の意を表してくれた。
なお、4日目に南海トラフの研究紹介を行った講演者は、過去にさくらサイエンスプログラムで来日した後に横浜国立大学の博士課程に入学し、現在JAMSTECでも研究生として研究を行っているフィリピン国籍の大学院生である。今回のプログラムにおいても全行程に随伴してサポートを行ってくれた。このような交流の循環が今後も続くことを期待したい。
二か国からの招へいとなり、それぞれの文化の違いへの対応など心配な面もあったが、参加者の協力もあって無事にプログラムを遂行することができた。JSTさくらサイエンスプログラム、JAMSTECの関係者の方々に深く感謝申し上げます。