2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第222号 (Aコース)
日本における人と自然の関わりを知る
京都大学 アフリカ地域研究資料センター
特定研究員 四方 篝さんからの報告
2024年2月25日から3月2日まで、カメルーン共和国より若手研究者4名(ヤウンデ第一大学大学院生2名、ドゥアラ大学大学院生1名、農業開発研究所(Institute of Agricultural Research for the Development)研究員1名)を京都大学アフリカ地域研究資料センターに招へいしました。当センターでは、2018年からJST-JICAによるSATREPSプログラムのもと、中部アフリカのカメルーンにおいて「在来知と生態学的手法の統合による革新的な森林資源マネジメントの共創」プロジェクトを実施しています。参加者の4名は、本プロジェクトに参加し、カメルーン東部州の熱帯雨林地域における野生動物の利用と保全、非木材林産物の有効活用等をテーマとした研究・活動に取り組んでいます。
日本滞在中は、人びとの暮らしと自然の関わりの多様なありかたについて学際的な視点から学び、今後の熱帯生物資源の利用と保全を展望することを目的としてプログラムを実施しました。
【1・2日目】
一行は2月25日の夜に関西国際空港に到着し、翌朝、京都大学のある京都市へ移動しました。長時間のフライトに加え8時間の時差もあり、相当疲れているのではないかと心配しましたが、京都への移動後、休むことなく京都大学の研究室訪問やオリエンテーションをこなし、雪の降るなかメインキャンパスの時計台にも足を運びました。
【3日目】
滋賀県立琵琶湖博物館を訪問・見学しました。博物館ではまず、加藤秀雄さん(琵琶湖博物館・学芸員)より琵琶湖とその周辺地域における人びとの暮らしや琵琶湖博物館の研究・活動についてレクチャーを受けました。展示室に移動してからは、亀田佳代子さん(同・副館長)より琵琶湖周辺におけるカワウと森と人の歴史的関係について解説していただきました。カワウの個体数が増加している状況は、カメルーンの森林地域で野生動物の減少が問題視されている状況とは対照的で、参加者は熱心に質問をしていました。また、楊平さん(同・学芸員)には、針江地域について情報提供していただきました。
博物館の訪問後、JR琵琶湖線と湖西線を乗り継いで琵琶湖北西部の針江地域に移動しました。針江の宿では、琵琶湖の幸を取り入れた和食、大きな共同風呂や和室の布団、朝食の卵かけご飯など、日本文化を体験する機会となりました。
【4日目】
針江の伝統的な水利用文化「川端(かばた)」を見学するツアーに参加し、木下彰さん(針江「生水の郷」委員会)にご案内いただきました。解説は英語で行われ、現在も川端を利用されているご家庭を巡りながら、地中から水が湧き出る地理的背景、湧き水を水槽の高低差を利用して用途に応じて使い分ける川端のしくみ、各家庭の川端から流れ出る水の水質を保つうえでの人びとの意識や集落全体での活動にいたるまで、地域が維持してきた川端の実践と琵琶湖の関わりについて詳しくご説明いただきました。
針江から京都に戻った後は、京の台所と呼ばれる錦市場を訪問したほか、国の登録有形文化財に指定されている『懐石 近又』の建物を見学する機会を得ました。鵜飼治二さん(近又七代目又八・総料理長)より、伝統的な町家作りの構造と京都の四季の関係、京都の景観を模倣した坪庭のつくりについて解説していただき、四季折々の自然を生活のなかに取り入れて楽しむ、京都ならではの文化について学びました。
【5日目】
京都と奈良の県境、木津川市にある京都大学附属農場を訪問しました。中野龍平さん(京都大学農学部・准教授)が農場内を案内してくださり、蔬菜・果樹、イネなどの栽培技術や品質管理について解説していただきました。市場のニーズにあわせてイチゴやトマトの成熟期をコントロールする技術に、参加者は興味津々でした。農場の訪問後は、奈良公園や東大寺を訪問し、日本における信仰と自然の関わりに触れました。
【6・7日目】
3月1日の午前中に京都大学総合博物館を訪問し、京都大学における熱帯生物資源に関わる研究成果について知見を広げました。午後は、さくらサイエンスプログラムとコメカ・プロジェクトとのジョイント・セミナーを開催し、参加者4名は自身の研究について発表しました。コメカ・プロジェクトのメンバー、ゲストスピーカーのPapa Saliou SARRさん(JIRCAS・主任研究員)、コメンテータの大石高典さん(東京外国語大学・准教授)、戸田美佳子さん(上智大学・准教授、コメカ・プロジェクト)を交えた質疑応答は非常に活発で、研究者と地域住民の協働のありかた等、参加者の今後の研究において有益な助言を得る機会となりました。セミナー終了後には修了証書の授与を行い、翌日、4名は関西国際空港から帰国の途につきました。
7日間という短い滞在期間でしたが、京都・滋賀・奈良での経験を通じて、参加者はさまざまな人と自然の関わりを知る機会になったと思います。また、コメカ・プロジェクトにおける日本側とカメルーン側のメンバー間での交流が深まり、新たな共同研究の展開も期待されます。
滞在期間中は、本プログラム実施主担当者の四方篝(京都大学・特定研究員)に加え、コメカ・プロジェクトで共同研究を実施している本郷峻さん(同・特定研究員)、William Kamgaingさん(同・学振特別研究員)、弘島由紀子さん(同・研究員)、関野文子さん、南倉輔さん(いずれも同・大学院生)が、案内や滞在中のサポートを行いました。また、大久保実香さん(琵琶湖博物館・学芸員)には、琵琶湖博物館見学のコーディネートや琵琶湖周辺地域の情報提供をしていただきました。プログラム実施にあたり、ご尽力をいただいた皆様に感謝いたします。