2023年度 活動レポート 第182号:愛媛大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第182号 (Bコース)

ケニアとの共同研究 「新規マラリア血清診断法の開発」

愛媛大学 プロテオサイエンスセンター マラリア研究部門
准教授 高島英造さんからの報告

【概要】

 2024年1月21日から2月10日の21日間、ケニアのマウントケニア大学の教員・大学院生合計6名が愛媛大学プロテオサイエンスセンター・マラリア研究部門(高島英造准教授)において、「新規マラリア血清診断法の開発」の共同研究活動を行いました。コムギ無細胞系の基礎から実施し、原虫ゲノム網羅的なタンパク質に対する抗体測定を行い、統計解析によって新規の血清抗体バイオマーカーの探索に成功しました。

【共同研究活動】

 マラリアは、いまだ年間60万人以上が死に至る、国際保健上の最重要感染症の一つです。マラリア原虫は単細胞の真核生物で寄生虫の仲間で、ハマダラカという蚊によって媒介されます。マラリア原虫のゲノムには約5400種類の遺伝子がコードされていますが、その情報を元にマラリア原虫の組換えタンパク質を調整することは、非常に困難であることが知られています。その原因はいまだにはっきり分かりませんが、大腸菌・酵母・バキュロウイルス・昆虫細胞・哺乳類細胞を横断的に駆使したとしても、目的のタンパク質が得られることは非常に稀です。しかしコムギ無細胞系を用いると、おおよそ80%程度の成功率でタンパク質を得ることができます。これにはマラリア原虫が植物性プランクトンのような生物であることが一因と考えられていますが、なぜ効率よく調整できるのかについてはわかりません。理由はともあれ、愛媛大学プロテオサイエンスセンター・マラリア研究部門では、コムギ無細胞系を利用することで、世界最大の原虫タンパク質コレクション(おおよそ4000種類)の調整に成功しています。

 マラリア流行地では、マラリアに何度も感染することで得られる免疫が原因で、マラリアに感染しても無症状でいられる人達がたくさんいます。そのような「無症状マラリア感染者」がマラリア流行の主な原因になっていますが、通常の検査法ではそのようなヒトは検出が困難です。そこで本研究プロジェクトでは、診断に有用なマラリア原虫抗体を探索します。マラリア原虫を構成する5400種類のタンパク質のうち、コムギ無細胞系で約4000種類を再現しています。これらのタンパク質に反応する抗体のうち、「無症状マラリア感染者」を検出できる抗体バイオマーカーはどんなものなのか、流行地のマウントケニア大学とともに、共同研究を進めています。

活動レポート写真1
タンパク質定量だけでも楽しくて難しい

 技術的な理解を深めるために、コムギ無細胞系を実際に動かしてもらいました。電気泳動とタンパク質定量を行いました。信頼できるタンパク質定量実験を行うのは、意外と難しいことを学びました。

活動レポート写真2
発光ビーズ注入

 抗体測定に必要な発光ビーズは光に弱いため、薄暗い環境での実験が必要です。384ウェルプレートにビーズ懸濁液を5uL/ウェルずつ分注します。微量高速分注機の動きを注意深く観察していました。

活動レポート写真3
活発な意見が飛び交ったプレゼンテーション

 得られたデータをさらに統計解析し新たな抗体バイオマーカーの探索を行いました。本プログラムの成果についてプレゼンテーションと議論を行いました。コミュニケーションは全て英語で行われ、マウントケニア大学の学生だけでなく、日本人学生にも良い経験になりました。またNHKや愛媛新聞からの取材を受け、夕方のニュースで5分間わたり特集報道されました。NHKニュースの画面を写真にとって、ケニアにいる家族に報告するなど、稀な経験に恵まれました。
https://www.nhk.or.jp/matsuyama/lreport/article/002/01/

活動レポート写真4
最後の記念撮影

 帰国前日に修了証書の授与式を行いました。そののち関係者一同で記念撮影を行いました。今回マウントケニア大学から招へいした修士課程の学生の一人は、博士課程の進学先に愛媛大学を是非選びたいと言っていました。お互いの交流を深め合った、短い20日間でした。

 最後に、本プログラムを実施するにあたり、多大な貢献をいただいたマラリア研究部門の学生の皆さん、森田講師に心から感謝いたします。また本学の事務職員の皆様と、ご支援をいただきました科学技術振興機構のさくらサイエンスプログラムに深謝いたします。