2023年度 活動レポート 第176号:産業技術総合研究所

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第176号 (Bコース)

ベトナム・ハノイ科学技術大学の修士学生が来所

国立研究開発法人産業技術総合研究所
環境創生研究部門 界面化学応用技術グループからの報告

 令和6年1月9日から1月26日までの3週間弱、JSTさくらサイエンスプログラムの支援を受け、ベトナム・ハノイ科学技術大学の大学院修士課程のMai Duongさんを招へいし、水中において長期に使用が可能な光触媒セラミック合成技術の研修を行いました。

 途上国の多くで安全な水へのアクセスが困難な事例の存在が全世界的な課題となっています。一方、途上国の多くが低緯度地域に位置しているので、太陽光を用いた水の浄化は大きな可能性を有しています。光触媒は太陽の光を受けると有機物を強力に分解する力を持っており、水中汚染物質の処理に光触媒を使うアイデアは昔から考えられてきました。ただ、水浄化技術は未だに実験室レベルに留まっており、光触媒環境浄化技術のうち防汚技術や大気浄化技術の分野ではすでに商業化を達成しているのとは対称的です。その大きな理由として水中で使用が可能な、安定した光触媒材料が発見されていないことが挙げられます。水中では気相中とは異なり、水からの様々なストレスを受けます。すなわち、光触媒そのものが水に溶けてしまったり、基材にコーティングされた光触媒が剥がれてしまったりします。このような現象を防ぐために、光触媒をセラミックとして調製することで水中安定性を向上させることができます。この光触媒材料の合成方法を学ぶことが今回の研修内容となります。

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実験風景、最初の溶液調製の段階

 市販の光触媒原料を用いれば、比較的簡単にセラミック光触媒は合成出来ますが、どこでも手に入るわけではないため、世界中で入手可能な一般的な試薬を原料としてセラミック光触媒を合成する基礎技術から始めました。また、得られたセラミックが不定形では材料として使いにくいので、セラミックを成型する石膏鋳型の作り方も学びました。さらに、Maiさんの自宅の近く(ハノイ、バッチャン地区)には陶器工房がたくさんあることから、石膏鋳型の代わりにテラコッタで鋳型を作る方法のレクチャーもしました。今回はセラミック光触媒合成の基礎のみの研修でしたが、帰国後いろいろ工夫を重ねることで、より実用的なセラミック光触媒を合成することが出来るようになると期待できます。

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触媒を成形中
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得られたセラミックスの結晶構造解析

 また、当初予定にはなかったのですが、研究室内にてベトナムにおけるMaiさんの研究紹介の時間を設けました。また、帰国前日には研究室の学生たちが発表していた学会に急遽参加して、日本の学会の雰囲気を感じてもらうこともできました。

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産総研内での研究発表
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SATテクノロジー・ショーケース2024(茨城県つくば市)に急遽参加

 今回、彼女は初来日のみならず、初海外ということで当初はとても緊張していたと思いますが、最後には非常にリラックスして研究に専念していました。ともかく、さくらサイエンスプログラムによる研修制度は、Maiさんにとって、非常に貴重な在外研究の機会であったと思われます。JSTの皆様にこの場を借りて深くお礼申し上げたいと思います。

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研究室の皆と記念写真