2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第174号 (Bコース)
モノづくりをプラットフォームとするグローバル人材育成のための研究交流
千葉大学大学院工学研究院
准教授 天野佳正さんからの報告
さくらサイエンスプログラムの支援を受け、2023年11月27日から12月17日までの3週間、インドネシアのガジャマダ大学(UGM)理学部化学科から修士課程の大学院生4名を大学院工学研究院(大学院融合理工学府先進理化学専攻共生応用化学コース)に招へいしました。
千葉大学の触媒化学研究室(一國伸之教授、原孝佳准教授)、環境化学研究室(町田基教授、天野佳正准教授)、およびUGM・無機化学研究室(Sri Juari Santosa教授)は、互いの大学院生を留学させることで人材育成を図り、将来的に共同研究の締結にまで進展させたいと考えていました。その取り組みのスタートアップとして、この度「モノづくりをプラットフォームとするグローバル人材育成のための研究交流」を実施しました。
本交流事業では、インドネシアにおいて生産量の多い農作物の一つであるキャッサバの加工・精製後の残渣を原料に、水質汚染物質を除去できる吸着剤あるいは安価な原料から付加価値の高い材料への変換が可能な触媒の調製に取り組みました。はじめに、賦活剤として塩化亜鉛を、窒素源として尿素を用いて窒素ドープ型活性炭を調製し、生活排水中の水質汚染物質である硝酸イオンの吸着実験を行いました。また調製した活性炭を用い、ベンズアルデヒドとシアノ酢酸エチルから医農薬中間体として有用なα、β‑不飽和ニトリル化合物の合成にもチャレンジしました。一連の実験を通じ、活性炭の性能や物性を評価するための分析装置(IC、GC、FT‑IR等)の使用方法やデータ解析技術、材料の表面修飾技術を学びました。
また、千葉県の重要な水道水源となっている印旛沼に行き、水質分析のためのサンプリングも行いました。水質指標として硝酸イオンとリン酸イオン、水の硬度に影響を及ぼすカルシウムイオンを、ICやUV‑Vis、AASにて定量し、水質評価方法や試料の前処理方法について理解しました。また実際に印旛沼湖水を浄水処理している千葉県営水道の柏井浄水場も見学しました。見学には長谷川勝久場長他、3名のスタッフに手厚くご対応頂きました。凝集沈澱池や高度浄水施設であるオゾン処理施設などを案内して頂き、招へい者からスタッフへ質問も多く出されました。日本が誇る浄水処理技術を直に見ることができ、招へい者にとってまたとない経験になりました。
さらに、共生応用化学コースのラボツアーも実施しました。ご協力頂いたのは環境マネジメント工学研究室(松野泰也教授、吉村彰大助教)、セラミックス化学研究室(上川直文教授、小島隆准教授)およびバイオマテリアル研究室(河合繁子助教)です。各研究室が有する実験装置等を見学した他、窒素ドープ型活性炭の微細構造を観察するための電子顕微鏡(SEMおよびTEM)の原理や操作技術も学びました。
本交流事業では、上述した研究交流に加え日本文化も経験してもらいました。具体的には、日本のおもてなし文化の象徴ともいえる茶道を体験しました。茶道にはいくつかの作法があります。その作法の中にさまざまな心配りが含まれていることを学び、茶道の奥深さを体感しました。茶道の他にも、豊洲市場での日本食体験や日本未来館での3Dシアター体験、浅草や秋葉原を散策し、たくさんの日本の文化・技術に触れることができました。
帰国の前日には成果報告会を実施し、招へい者全員が発表を行いました。この報告会には佐藤智司副学長(共生応用化学コース、資源反応工学研究室)にもご参加頂きました。報告会では活発な質疑応答が行われ、招へい者が貴重な体験を経験したことが伺い知れました。意見交換会後の修了式では、佐藤智司副学長より修了証が授与されました。
今回はUGMのみとの交流事業でしたが、インドネシアにおける他の大学との共同研究の話も進んでいるところであり、今後は複数の大学・研究機関によるコンソーシアムを形成し、グローバル人材育成を基盤とした研究交流を進めて参りたいと思います。
本交流事業を実施するにあたり、ご支援を頂きましたJSTに心より感謝申し上げます。