2023年度 活動レポート 第145号:北里大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第145号 (Bコース)

人獣共通病原菌・犬レンサ球菌が有する分子特性の把握と全ゲノム配列に基くデータの検証
~国際共同研究を継続できる次世代人材の育成~

北里大学 大村智記念研究所 感染症学研究室
教授 高橋孝さんからの報告

【交流背景・目的】

 招へい先大学である韓国・慶尚大学校・医学部は同国の南部(Jinju)に位置(釜山空港へアクセス可能)し、地域の中核となる国立大学医学部であり、附属病院を併設することで地域医療も担っている。優秀な学生を医学部に集約し、大学院への進学を通じて生命科学の研究も実践している。
 交流の背景として、2015年度⇒2016年度⇒2017年度、さくらサイエンスプラン招へいプログラムの支援を受け、医学部生計5名を当研究室で受け入れ、実験手技や研究計画を指導してきた。これを契機に、双方の研究室間訪問を行うなどの国際交流を継続することができた。2020年度、コロナ禍の影響により、互いの研究室を訪問することが困難となり、オンライン交流を実践した。2023年度、再び、招へいプログラムの支援を受け、医学部生2名を当研究室で受け入れることが可能となった。
 交流事業の目的は、実験手技やビッグデータ(ゲノム配列)の処理を医学部生へ伝授し、慶尚大学校・医学部・微生物学における研究活動を促すことである。このような経験を通じて、医学部生の研究活動への関心が促されることも期待している。

【交流内容】

 具体的な交流内容を述べる。人獣共通病原菌である犬レンサ球菌株(既にゲノム配列が決定されている日本由来株計10株、医学部生1名あたり5株を担当処理)を活用し、抽出DNAサンプルを用いて、犬レンサ球菌が有する病原性調節因子の塩基配列増幅・決定(1週目)⇒同調節因子に隣接する病原因子の塩基配列増幅・決定(2週目)を実施した。得られた塩基配列の妥当性を既知のゲノム配列に基づいて検証した。さらに、韓国由来犬レンサ球菌の4株に関するゲノム配列中の同様な病原性調節因子の塩基配列(医学部生1名あたり2株のゲノム配列を処理)を予測し、抽出した。

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犬レンサ球菌よりDNAを抽出する医学部生

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犬レンサ球菌・塩基配列の増幅を試みる医学部生

 交流事業中の日曜日において、日本の文化を実感できるツアー(実施主担当者が引率して浅草寺・東京スカイツリーなどを見学するツアー)を体験された。
 1週目および2週目において得られた実験データを各自が総括した。くわえて、日本および海外からすでに報告されている論文データを抽出するとともに、本実験で得られたデータとの比較解析も実施した。最終日において、2週間での実験成果に関する全総括とディスカッションを行い、本交流事業が終了となった。各自へ修了証をお渡しするともに、webアンケート形式を活用した招へい者修了報告書についても協力いただいた。

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修了証を持つ医学部生と研究室に所属するスタッフ・大学院生

【交流事業を終えて】

 今回、招へいされた医学部生は、微生物学講義や分子生物学講義をすでに受講されていた。そのため、交流事業を導入するガイダンスにおいて、細菌および塩基配列増幅といった基礎知識を持っていた。その意味で、両名とも、交流・全行程において、基礎実験・研究に関するモチベーションの高さが感じられた。くわえて、医学部生2名の内1名の方は慶尚大学校所属の研究所において分子生物学の実験も経験され、医学部卒業後の希望は自身の研究室を設立することである点も判明した。
 一方、細菌が保有するゲノム配列に関する活用方法(例えば、塩基配列間の類似率検証・塩基配列の抽出法・ゲノム上の各種遺伝子座の構造など)の手技は両名とも初めて経験するものであり、帰国後・研究活動への関心度が促進されることが期待できる。

 今後、北里大学・大村智記念研究所と慶尚大学校・医学部との国際共同研究(例えば、二国間での同一菌種における比較ゲノム解析など)がさらに実現展開できるような交流事業となった。