2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第121号 (Aコース)
タイの高校生と共に学ぶ日本の科学技術
清真学園高等学校からの報告
2023年11月8日~13日の6日間の日程で、タイ王国のプリンセス・チュラポーン・サイエンス・ハイスクール・ピサヌローク校(以下PCSHSピサヌローク校)から教員3名(内2名は自己負担)と高校生4名を招へいしました。プリンセス・チュラポーンサイエンス・ハイスクールはタイ王国に12ある理数教育を重視する王女立の全寮制中高一貫校で、そのひとつであるピサヌローク校と本校は2016年から国際学術交流を行っています。コロナパンデミックの影響で4年ぶりとなった今回、「タイの高校生と共に学ぶ日本の科学技術」というテーマでプログラムを実施しました。
【11月8日】
招へい者はタイ王国のピサヌロークから一日半をかけて成田空港に到着。午前中にサイエンススクエアつくばを見学しました。来日中の体験が充実するため、PCSHSピサヌローク校の生徒と本校生徒はオンラインで「日常生活の中で科学技術がどのように関わっているか」を何度かディスカッションして準備しました。サイエンススクエアつくばで科学技術が医療や農業の分野にまで応用され、製品化されていることを実物に触れたりしながら体験することができたことはタイの生徒にとって一層科学技術の実用化への関心を高める体験となりました。
午後には、昨年から共に国際共同研究を進めてきている本校生徒のバディがオリエンテーションを行いました。本校バディ生徒が校内オリエンテーションのみならず近隣の史跡案内まですることができ、初日から生徒間の交流を円滑に進めることができました。
【11月9日】
本校生徒との学術交流をしました。最初の学術交流では、PCSHSピサヌローク校の生徒と本校生徒が混合チームを作り、過去の科学の甲子園で行われたパラシュート・コンテスト-「ゆっくり、正確に着地するパラシュート」問題に取り組みました。PCSHSピサヌローク校の理科の授業では、このような問題解決型学習が積極的に行われているとのことで、ピサヌローク校の生徒は積極的にチームをまとめて課題に取り組んでいました。英語の授業では、「世界に伝えたい素晴らしい日本・タイ」というテーマでプレゼンを行い、互いの国を紹介しました。化学の実験の授業参加では、本校生徒が補助役を務め、PCSHSピサヌローク校とは異なるアプローチでの理科教育に関心を示していました。
午後には、PCSHSピサヌローク校の教員と生徒による数学の授業が行われました。全寮制のピサヌローク校では、夜の授業というものがあり、そこでは教員だけでなく生徒が授業を担当することもあるとのことで、今回はタイの生徒からの希望で本校生徒への数学の授業が行われました。
最後に本校の探求活動に参加しました。文部科学省のSSH指定校である本校では、探求の時間にゼミ活動を行っており、理科系分野のゼミが開講されています。昨年度からピサヌローク校と本校の進化学ゼミに所属する生徒は「花酵母」について国際共同研究を行ってきており、土曜日の科学研究発表会に向けて最終的な話し合いをしました。
【11月10日】
筑波大学で科学技術分野の研究室訪問と講義受講をしました。日本とタイの生徒が共に体験学習できるように、大学で本校バディ生徒と合流。午前は、システム情報系の掛谷英紀准教授の研究室を訪れました。講義後に、「遺伝子データベースを利用した新型ウィルスの変異株の解析」を本校生徒とチームになりコンピューターを使って遺伝子データベースの解析を行いました。タイ王国でも通信・情報系は、急速に発展してきている分野で、科学教育を重視するピサヌローク校でもエンジニア育成のためのプログラミングを学んでいるとのことでしたが、大学で情報処理の授業体験は初めての経験で、情報処理がどのように教えられ、それがどのように利用されて科学の発展と結びついているかを知る機会となりました。
午後には、情報科学類のアランニャ・クラウス助教から「人工知能分野における進化計算」というテーマで講義をしていただきました。人工知能のプログラミング理論が生物学の進化論を基にしたものであることや、これからどのような発展が見込めるか、実際のプログラミングで実用化されている例を挙げながらとてもわかりやすい説明にタイの生徒は終始頷きながら講義を受けていました。講義後にタイの生徒からは、「タイでは工業製品の製造がまだ主流であるが、ICT分野への人材育成に力を入れてきている、人工知能のプログラミングは実社会のどこで、このような科学技術を還元できる可能性があるか。」という質問に、クラウス助教はとても感心し、丁寧に答えてくれました。
【11月11日】
スーパー・サイエンス・ハイスクール指定校である本校でのSSH秋季発表会に参加しました。PCSHSピサヌローク校の生徒は科学研究発表の口頭発表とポスター発表を本校生徒と共に行い、理数科学分野で研究発表交流をしました。タイの生徒の2つの発表、「Species of Yeast Found in Common Floss Flowers and Orange Blossoms and their ability to Produce Ethanol」と「Factors Affecting the Color Change of Horn Frogs」は本校生徒との国際共同研究でもあり、昨年度からの研究の成果を発表しました。日本とタイの自然環境が異なる中での国際共同研究は、オンラインでの議論と中間報告を何度も重ねて行ってきたもので、両校の生徒にとって様々な視点から課題を見つけ研究する機会となっただけでなく、互いに親交を深めていく実りの多いものとなりました。
午後には、本校茶道部による茶道体験が行われ、日本の伝統文化を体験しました。
【11月12日】
タイの生徒はホームステイ先のホストファミリーと過ごし、日本での生活体験・文化体験を通して科学技術がどのように関わっているかを体験する日としました。タイの生徒が「日本では、生活の中のあらゆる所に科学技術が関わっていることを感じられ、古くからの伝統や文化も継承しつつ、新たな文化も取り入れて発展してきている。」と、近年発展著しいタイの事情と比較しながら話をしてくれ、ホストファミリーからは、タイの留学生を受け入れてこちらが学んだことが多かったとの報告を受けました。
【11月13日】
プログラム最終日は、日本科学未来館を見学しました。初日に見学したサイエンススクエアつくばで、日本の科学技術が社会でどのように実用化されているかを垣間見てきたタイの生徒は、科学未来館では地球や宇宙といった壮大な規模にまで科学技術が及んでいることを体験することができました。
科学技術分野で活躍できる次世代の人材育成を目標としているピサヌローク校との国際交流は、日本の科学技術の共同体験、国際共同研究発表をするまでになり、一層深い交流をすることができました。「さくらサイエンスプログラム」をはじめ、ご協力して頂いた関係機関・関係者の皆様に改めて感謝を申し上げます。