2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第118号 (Cコース)
薬用植物の持続的利用に関する課題の共有と科学的な解決策を提案するプログラム
金沢大学医薬保健研究域薬学系生薬学研究室(薬用植物園)からの報告
さくらサイエンスプログラムの支援により、金沢大学と学術交流協定を締結しているタイの2校、チェンマイ大学の教員と大学院生、ナレースワン大学の教員と学生および大学院生の合計5名を、2023年12月8日から10日間の日程で金沢大学に招へいしました。この間、金沢大学の教員や学生と金沢大学薬学系の研究室を中心に研究交流を実施しました。
日本とタイは伝統医学を現在でも重視しているという共通点があります。日本は漢方医学、タイはアーユルヴェーダ(古代インド医学)に派生するタイ伝統医学です。いずれも治療薬に天然資源を原料にする生薬(しょうやく)を使用しています。原料生薬の由来は、両国とも野生品から栽培品へ、自国生産品から輸入品へと、次第に移行しつつあるのが現状です。その理由として天然資源の枯渇や、より安価な生薬に移行した結果などが挙げられますが、自国で使用する原料の自給率の低下は供給・品質面での不安定要素を増大させることになります。
この経緯から、私達は伝統医学を持続的に利用し続けるためには限られた資源を効率的に、そして有効利用する必要があります。今回の交流プログラムは日本とタイの教員と大学院生、学生と議論することを意図して計画しました。すなわち(1)薬用植物の持続的利用に関する両国の課題を共有すること、(2)科学的な手法による解決策を提案すること、の2点を目的としました。
全ての交流プログラムは、タイの5名の皆さんと金沢大学薬学系生薬学研究室のメンバーが一緒に活動しました。まず、薬用植物園で生薬の生産現場を見学しました。金沢大学の薬用植物園は全国でも最大規模の面積を有し、試験栽培ほ場と生薬への加工設備を備えています。初回のセミナーでは日本とタイの両国での医療における伝統医学の比率などの背景を理解したうえで、伝統薬に使用する原料生薬の種類や由来、栽培・生産方法の違いを比較、議論し合いました。
今回のプログラムは、タイの皆さんに日本の漢方薬の歴史と現状を理解するとともに、実験操作も並行して実施する内容で組み立てました。具体的に、薬用植物園で実際の生薬生産現場を体験し、富山大学和漢医薬学総合研究所民族薬物資料館では漢方薬に使用される原料生薬を学び、小太郎漢方製薬株式会社で実際の漢方薬製造ラインを見学するというものです。
まず、薬用植物園では収穫時期であるクチナシの果実を実際に収穫し、加熱処理を実施することで生薬「山梔子」を作成しました。タイの皆さんはこのような生薬生産の経験がなかったとのこと、非常に印象に残った体験だったようです。
富山大学の民族薬物資料館では、専任職員による丁寧な解説を熱心に聞いていました。日本で使用するタイ産の生薬のほか、タイの伝統医学で使用される生薬も展示されており、自国でも見ることがなかった生薬標本に見入っていました。
別日程での小太郎漢方製薬では、原料生薬が混合、粉砕されエキス化され、パッケージ化される工場ラインを案内いただきました。同時に併設の研究所では生薬や製品の厳格な品質管理体制を説明していただき、深い感銘を受けていました。
研究面では金沢大学の実験室で、実際に生薬から DNA を抽出しての原植物鑑別や LC−MSによる成分分析を実施しました。さらに金沢大学で生産している生薬製剤の作成まで積極的に体験しました。研究の合間には、紺野勝弘富山大学教授により、生薬の成分研究や品質管理の重要性を講演していただき、タイの皆さんが金沢大学で体験した実験操作の意味の理解を深めることができました。
最終セミナーでは研究室メンバー全員が揃い、研究成果発表会とともに今後の交流計画について議論しました。
以上、本プログラムは日本とタイの薬用植物の利用について情報交換し、持続的な利用について議論を深めるために最適な内容でした。同時に、週末には文化体験として金沢城や兼六園という日本を代表する名蹟を楽しみました。これらの交流実績はJSTさくらサイエンスプランに基づくものであり、採択いただいたことに対し改めて感謝いたします。