2023年度 活動レポート 第114号:理化学研究所

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第114号 (Bコース)

インドネシア・パジャジャラン大学との共同研究プログラム

理化学研究所 核構造研究部
専任研究員 渡邊功雄さんからの報告

 インドネシア・パジャジャラン大学とは令和4年度においてもさくらサイエンスプログラムの支援を受けて機能性材料開発にかかる共同研究を実施し、10人の学生と2人の教員が理化学研究所に滞在した。本年度は、昨年実施した共同研究交流で得られた電子ドープ型機能性超伝導材料の研究を発展させ、材料の成分比をより詳細に制御することにより超伝導・磁性の相関を解明することを目指した。また、有機太陽光発電材料の電気的・磁気的性質を理解する共同研究の新たな展開を図った。特に、地産材料を用いた有機太陽光発電材料の磁気的性質と電気的性質との相関を解明し、インドネシアでの工業応用へ向けた機能性超伝導材料と有機太陽光発電材料の国内生産を実現する道筋を立てることを目的とした。昨年度の交流期間中に有機太陽光発電材料の研究に有用である核磁気共鳴装置(NMR)が理研で利用できることを知り、材料開発研究を飛躍的に高めるためにNMR装置の活用も新たに共同研究テーマに加えた。

 今年度は10名の学生に加えて、自己資金で3名の教員とポスドクが来日した。写真1は来日直後に撮影した実施主担当者グループメンバーとアシスタントの方との集合写真である。研究用の試料をインドネシア側が準備し、超伝導量子干渉計、X線構造解析装置とNMR装置を用いて超伝導と磁性特性を明らかにする測定を行った。各学生は理化学研究所側の実施主担当者グループメンバーの補助のもと、各々の装置を運用して自分が準備した試料に関するデータを取得した。測定後はインドネシア側教員と実施主担当者からの助言を受けてデータ解析を行い、滞在期間中に測定結果を取りまとめて論文へとつなげていく作業を行った。写真2は超伝導量子干渉計へ試料をセットする様子を学ぶ学生たちである。それぞれの装置パーツが高額になるため、学生たちが緊張して作業を学んでいる様子がわかる。

活動レポート写真1
写真1:来日直後に撮影した実施主担当者グループメンバーとアシスタントの方との集合写真
活動レポート写真2
写真2:超伝導量子干渉計へ試料をセットする様子を学ぶ学生たち

 一連のハンズオン作業に加えて、上智大学の協同研究者の研究室を見学し、理化学研究所とは異なった研究内容とその実施環境を学んだ。移動の際に地下鉄を利用したが、パジャジャラン大学のある地域には電車がなく電車自体が初体験の学生もおり、日本のインフラと鉄道文化を驚きとともに満喫していた。写真3は上智大学で個体物性研究用のNMR装置を見学している風景である。これらの装置はインドネシアでは利用することが困難な装置であり、自分の試料の測定の可能性を含めて多くの学生が積極的に質問していたことが印象的であった。

活動レポート写真3
写真3:上智大学で個体物性研究用のNMR装置を見学している風景

 日本未来館の見学も学生たちのトピックスである。地下鉄の経験に加えて日本未来館へ向かうモノレールも全員が初体験であることと、海のない地域で育った学生には初めて海を見ることもあり、窓から見える風景をビデオ撮りするなど、我々にとっては通常の風景も彼等にとっては新しい世界が見えたようで貴重な体験になったようである。日本未来館ではちょうど大きな地球儀のジオラマが展示されており、自国の場所を見つけて喜んだり各自がジオラマの前で思い思いのポーズで写真撮影をするなど、日本の科学展示技術のすばらしさをコメントしていた。

 昨年度に引き続くさくらサイエンスプログラム支援による共同研究を通じて、これまでに2名の留学生が理化学研究所で長期にわたって研究を行うとともに、8報の論文が公表された。今年度の交流を通じてさらなる論文が公表されることを期待している。今年度来日した学生の中には、今回の経験に触発されて文科省の奨学金へ応募して実施主担当者の関わる研究室の修士課程へ進学することを目指す学生も出てきている。さくらサイエンスプログラムがこれら一連の共同研究と学生の留学を後押ししてくれており、その有意性を強く感じている。この機会を基にして今後ともパジャジャラン大学や関連する大学との交流を行っていきたい。