2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第108号 (Aコース)
パナマの若手研究者が日本の包括的高齢者ケアを学ぶ
新潟医療福祉大学からの報告
【プログラム概要】
新潟医療福祉大学では2023年11月19日から25日まで、中米パナマの国立身体医学リハビリテーション研究所から、リハビリテーション医・理学療法士・作業療法士・栄養士の4名を招き、さくらサイエンスプログラムを実施しました。4名の方には日本の包括的な高齢者ケアについて、本学での座学と医療・福祉現場の見学をとおして理解を深めてもらいました。
パナマの高齢化率は日本の1970年代のそれであり、高齢化の波が押し寄せてくることは一部の専門家にしか意識されておらず、今回の新潟での体験はタイムマシンで一気に数十年先のパナマを見たのと同じようなものです。訪問された一同には驚きの連続でした。
主なテーマは、1)家族にまかされた高齢者ケアから、地域全体でサービスを提供する高齢者ケアへの転換、2)転ばぬ先の杖である介護保険、そして3)認知症のケア、の3つで、最後にパナマでの高齢者ケアについて必要となるステップについて議論をしました。
【運動教室】
パナマでも地域単位での集まりというのはありますが、親睦のためのゲームなどが主な活動で、「健康運動」という考え方は一般には普及していません。今回の見学訪問では「健康運動」を中心に据えたいくつかのプログラムに参加しました。高齢者介護予防体操教室では、その地域での活動のリーダーを中心として、皆で公民館に集まって軽運動をしたり、専門家をまじえての講話などのプログラムを自主的に実施したりしています。地区コミュニティ協議会支援のプログラムでは、まちづくりセンターに健康運動指導士を招いて、中・高齢者を対象にゲーム感覚で楽しみならが健康運動をしっかりと行います。さらに、高齢者のみではなく、より若い年齢層から「健康運動」の習慣獲得をめざすためのプログラムとして、区役所健康福祉課主催の運動教室、そして疾病予防運動施設として認定された「ロコパーク」での運動プログラムの見学を実施しました。
【介護保険・地域包括ケア】
パナマでは「年をとって身体が悪くなったら、家族にでもみてもらうさ」という意識が一般市民の間ではいまだに主流で、具体的な政策などもまだ検討されていません。現在の日本の高齢社会を支えている介護保険制度も2000年からで、日本の高齢化が始まった1970年から30年後の実現です。高齢者に対して「病院で寝たきり」から「地域で面倒をみる」への方向に舵をきったのも1990年代後半です。日本の現在の高齢者対策を理解するには、その背景にある歴史から紐解いていく必要があります。今回のプログラムでは、現場の見学と対応する形で本学教授陣によるセミナーを実施しました。
【認知症】
65歳以上人口比率が30%に達しようとする長寿国日本で、次のチャレンジは65歳以上人口の5人に1人が認知症者になるという現実です。また、夫婦と子供からなる核家族世帯が30%以下、単身世帯が30%超という日本の事情では「家族で認知症者の面倒をみる」ということが事実上不可能になっています。この状態はパナマからみるとまさに「異国」そのものですが、いつか来る将来であることも確かです。大学での座学に加え、実際にグループホームの見学も実施しました。
【研究活動】
国立身体医学リハビリテーション研究所は、パナマでのリハビリテーション実践のリーダーであるとともに、研究施設としての役割を担っています。そこで、障害によって失われた運動機能の再学習・再獲得を促進する脳科学、関節の変性などの謎をさぐる関節病理学、手の外科手術後のリハビリテーション、運動選手の膝や足首の怪我の予防をめざす応用運動学、リハビリテーション栄養、の研究活動についても見学を行いました。
【今後の展望】
国立身体医学リハビリテーション研究所はパナマ国内で唯一つのリハビリテーションの臨床・研究のための国立の専門機関で、パナマの医療福祉の領域においては指導的役割を果たすことが期待されています。今後は、同研究所とのリハビリテーション専門領域での技術的交流・支援を企画していく予定です。