2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第096号 (Cコース)
佐渡島の豊かな海を生かした海洋生物多様性を学ぶためのハイブリッド型フィールド研修
新潟大学佐渡自然共生科学センター臨海実験所からの報告
新潟大学佐渡自然共生科学センター臨海実験所(以下、佐渡臨海)では、2023年7月23~30日に、バングラデシュ、ベトナム、インド、香港の4つの国と地域から15名の学部生・大学院生と4名の教員を招へいして、海洋環境のモニタリング手法と海洋生態系について学ぶ研修を開催しました。招へい者に加えて、自己資金で香港より大学院生1名が参加し、国内より講師として招いた島根大学の教員1名と、新潟大学の学部生・大学院生5名を加えて、現地参加者の合計は26名となりました。
本研修では、2022年度に開催したさくらオンライン代替プログラムでの経験を活かし、現地研修の一部をオンラインでも配信するハイブリッド形式での研修を行いました。現地参加者の佐渡島への移動を経て研修初日となった7月24日には、佐渡臨海の教員が日本海温帯域に位置する佐渡島の海洋環境と海洋生物の多様性に関する講義を行い、バングラデシュ、インド、香港より計27名のオンライン参加者が、現地参加者とともに佐渡の豊かな海について学修しました。
【研修2日目】
午前は、まず初めにベトナム・ハノイ国立教育大学のTran Duc Hau准教授により海洋生態系に関するアクティブ・ラーニング研修が行われました。世界の海とそこに暮らす生き物の特徴をグループで話し合い、それらを世界地図上に描いていくことで、世界の海洋生態系の全容をより深く理解できたのではないかと思います。続いてシュノーケリングによる海洋生物採集を行いました。海に入ること自体が初めての学生も多い中、シュノーケリングで採集を行う際の装備や注意点などを細かく説明し、実際に教員も海に入って実践することで、事故無く安全に採集を行うことが出来ました。
午後はハイブリッド形式で開催し、まず島根大学の吉田真明准教授により、生態系調査の最新手法の一つである環境DNAを用いた海洋生物のモニタリング手法とその実践例が紹介されました。続いて、オンライン参加者も交えて午前中に採集された生物を動物門ごとに分類する作業が行われ、多様な海洋生物の動物門ごとの特徴を確認しました。さらに発生学のモデル生物にもなっているウニの人工受精の様子を現地参加者に見せつつオンラインでも配信し、有性生殖における生命誕生の瞬間を観察してもらいました。オンライン研修はここまでで終了しましたが、現地ではさらにたも網を用いた夜間岸壁採集を行い、夜行性や遊泳性の海洋生物を採集・観察しました。
【研修3日目】
午前は佐渡臨海の実習調査船IBISⅡを利用してプランクトンと小型ベントスの採集を行いました。プランクトンネットや採泥器の使用方法を学ぶとともに、海中や海底に棲む顕微鏡サイズの小さな生物にも多様な形態や生態があることが実感できたのではないかと思います。3日目の午後にはチャットグラム獣医動物科学大学のMohammed Nurul Absar Khan教授とMd. Mahiuddin Zahangir准教授により、アジア熱帯地域で行われるエビ養殖に関する最新の研究事例の紹介がありました。さらに、全島がジオパークとなっている佐渡島内のいくつかのジオサイトを巡り、生物多様性を育む海岸地形の多様さを見学しました。
【研修4日目】
コーチン科学技術大学のPriyaja Prabhakaran助教より、インド熱帯域の海岸環境、特にサンゴ礁生態系についての紹介がありました。前日のエビ養殖に関する研究紹介と併せて、アジア熱帯域における海洋環境とその利用に関する理解を深められたと思います。続いて、これまでの研修の成果をグループでまとめて発表する成果発表会を行いました。発表会では各グループが一つの動物門を選び、実際に観察したその動物門の生物の特徴を、各自が描いた生物スケッチを交えて紹介してもらいました。どのグループも短時間でよく工夫された発表資料を作り、各動物門の特徴をわかりやすく紹介出来ており、佐渡島における研修の成果を実感できました。
【研修5日目~6日目】
7月28日に佐渡での研修を終えて東京に移動した後、7月29日に、本研修最後のメニューとして、葛西臨海水族園と国立科学博物館を訪問しました。葛西臨海水族園では、日本および世界の多様な海洋生物とその飼育展示手法を学び、国立科学博物館では生物の進化史と日本の科学技術に関する展示を見学しました。
今回の現地とオンライン同時のハイブリッド型研修では、双方に実りある形とするための準備や進行がとても大変でしたが、現地参加者には海洋生物多様性を実感し、自国における海洋環境保全への意識を高めてもらえた手ごたえがあると同時に、オンライン参加者にも日本の海洋生物多様性の一端に触れてもらうことで、将来の訪日の機運を高めることができたのではないかと思います。佐渡臨海では、今後もこのような国際研修を継続して行うべく邁進して参ります。最後に、本研修をご支援いただいたJSTさくらサイエンスプログラムに深く御礼申し上げます。