2023年度 活動レポート 第94号:静岡大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第094号 (Cコース)

International field seminar: Diverse forest ecosystems around Shizuoka 2023

静岡大学からの報告

 静岡大学農学部地域フィールド科学教育研究センター森林生態系部門では、富士・南アルプス山岳地域の多様な植生・地学的環境における野外セミナー「International field seminar: Diverse forest ecosystem around Shizuoka」を開講しています。さくらサイエンスプログラムのご支援をいただき、2023年度は10月24日から11月2日の日程でセミナーを開催し、インドネシアのボゴール農科大学、アンダラス大学、ガジャマダ大学、バンドン工科大学、タイのカセサート大学、マレーシアのプトラ大学、ベトナムのベトナム林業大学から合計10名の学生と2名の引率教員を招へいしました。さらに、チェコのメンデル大学からの学生と教員それぞれ1名に加え、本学の大学院修士課程の学生もセミナーの全内容を受講しました。また、セミナーの前半パートは筑波大学と三重大学の、後半パートには山梨大学と新潟大学の修士課程の学生も受講し、のべ36名の参加者で盛況にセミナーが開催されました。

■前半:Field practice in Tenryu Forest(10月24~27日)

 前半パートは当センターの天竜フィールドで開催しました。ヒノキの人工林を活用した単純同齢人工林のリハビリテーションに関する取り組みや水フラックスの測定などを紹介すると共に、UAVの操縦体験や画像解析の実演を通して、森林・林業管理に役立つデジタル技術について考える実習も行いました。また、地域の林業家の方の森林も見学させていただき、森林づくりの理念や今後の展望などについて紹介していただきました。環境保全と木材生産との調和や、デジタル技術の活用、長期的な視点での森林経営などについて活発な議論がなされました。

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ヒノキ人工林でのリハビリテーションについて学習する様子

 また、演習林に隣接する国有林(観音の森)では、常緑広葉樹の特徴や森林の階層構造などについて観察しました。皆さん、植物の形質や生存戦略に興味を持ち、熱心に学ぼうとしている姿が印象的でした。

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常緑広葉樹を主体とする森林での学習の様子

 さらに、日本の林木育種についての実習なども行いました。静岡県の森林・林業研究センターを訪問し、育種の材料である精英樹や、優良品種の種子生産の現場である採種園を見学しました。品種による形質の差を目の当たりにし、驚きの声があがっていました。
 前半パートでは、静岡大学、カセサート大学、ボゴール農科大学の教員による講義や、学生の研究発表会も開催し、お互いの国の森林や研究を知る良い交流の場となりました。

■後半:Field lecture in temperate forests around Mt. Fuji(10月28日~11月2日)

 後半パートでは天竜を離れ、静岡市近郊、当センターの南アルプスフィールド、富士フィールド等での実習を行いました。

 静岡市近郊では、木材の利活用を推進するという視点から、家具工場や木造建築物の見学を行いました。

 南アルプスフィールドでは、冷温帯の落葉広葉樹林の生態について学ぶと共に、シカ柵の内外の植生の状況を比較しながら、シカが森林生態系に与える影響について実習を行いました。東南アジアからの参加者が多く、普段あまり目にすることがない生態系を観察できたことに加え、綺麗な紅葉も満喫でき、非常に満足気な様子でした。

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落葉広葉樹林の樹木の特性について学ぶ様子

 富士山周辺では、富士吉田市にある国立環境研のCO2フラックスサイトを見学し、CO2フラックス観測の取り組みを見学することや、白糸の滝で水文および地質についてなどを学びました。また富士山2号目から6号目を巡り、冷温帯から亜高山帯、そして、森林限界の生態系とエコトーンの観察などを行いました。それぞれの標高域での植物の生存戦略の多様さなどは非常に興味を引きました。また、国土交通省・富士砂防事務所の方に案内いただき、大沢扇状地における土石流対策などについても学びました。

 最終日は、静岡大学とメンデル大学の教員による講義の後、修了式を行いました。

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修了式後の記念撮影

 森林の保全や管理は、特定の分野の視点だけではなく、あらゆることを考慮した総合的な視点が必要とされ、それに対応可能な人材の育成が強く求められています。本セミナーでは、森林生態学、造林学、動物生態学、林木育種学、森林水文学、砂防学、リモートセンシング学など、森林を取り巻くあらゆる分野の視点を提供しました。このセミナーで学んだ内容は、それぞれの地域の森林を取り巻く課題の解決や、研究の促進につながることを願っています。また、多様な分野を専攻する人々が一同に介し、交流することで、学問的視野の拡大とネットワークの構築、具体的な新規研究課題の構築などにもつながった実績もあります。今後もこのような活動を維持できるよう、切に願っております。