2023年度 活動レポート 第71号:九州工業大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第071号 (Bコース)

環境ストレス耐性を向上させる植物バイオテクノロジーに関する国際共同研究

九州工業大学大学院生命体工学研究科
准教授 池野慎也さんからの報告

 令和5年9月11日から10月1日までの3週間、エジプト、アインシャムス大学から1名の教員と4名の学生を招へいして環境ストレス耐性を向上させる植物バイオテクノロジーに関する国際共同研究活動を実施しました。
 環境ストレスとは、乾燥や過湿、高温、低温、塩害など生物が外界から受けるストレスのことです。微生物や植物は、このような環境ストレス下におかれると機能阻害や成長阻害を受けます。そのため、環境ストレスは農業や食料加工における生産性の低下をもたらす要因の一つとなっています。近年、人口増加が加速しているエジプトでは、食糧の確保のために砂漠の農地開発が進められており、その開発にはナイル川の水を大量に必要としています。最下流域に回る水が少なくなり、その結果、塩害が加速されています。このような背景から、エジプトでは砂漠の農地化技術に加え、塩害や乾燥など環境ストレスに強い作物の開発技術に非常に関心が高まっています。

 来日前のオンラインミーティングでは、本事業の紹介、自己紹介、渡航に関する注意点、日本での生活や研究活動における注意点に関するオリエンテーションを実施し、来日後に向けた活動の準備をしました。9月11日に来日し、翌日にキックオフプレゼンテーションおよび滞在中の共同研究内容の詳細について打ち合わせを行いました。午後は本学生命体工学研究科の研究室を訪問し、バイオテクノロジーに関連した研究分野を通じて社会的諸問題の解決をめざした研究活動を見学しました。

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キックオフミーティング時の学生同士のディスカッション

 翌日(来日3日目)から、各チームに分かれて国際共同研究を開始しました。チームAとチームBはペプチド設計技術とストレス耐性を向上させる新規機能性ペプチド獲得技術、チームCとチームDは植物への機能分子送達法とストレス耐性の評価法をベースとして、本学の大学院生と一緒に共同研究を実施しました。

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研究活動の様子

 12日目は、神戸大学を訪問しました。訪問した先端バイオ工学研究センターは多様な有用物質のバイオプロダクションの実現によるイノベーション創出でバイオエコノミーを牽引する日本有数の研究センターであり、また、神戸大学は農工連携でも日本を代表する研究機関であります。今回の訪問で、これら最先端の科学技術施設を見学し、世界をリードする日本の科学技術に理解と関心を深め、農工連携の在り方も含めて学術的な知見を成熟することができました。

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神戸大学訪問・見学(活動12日目)

 16日目は、本学飯塚キャンパスに伺い、合成生物工学研究センターが主催する国際シンポジウムに発表参加しました。当センターは植物をはじめとした様々な生物種で利用できる汎用性の高い合成生物学の技術開発を行っています。シンポジウム終了後はセンターの構成研究室を訪問・見学し、合成生物学・植物バイオテクノロジー分野の最先端の技術に触れ、知見を深めることができました。

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国際シンポジウムでの発表(活動16日目)

 共同研究の最後では、各チームの研究成果と今後の展望についてのプレゼンテーションを行ない、大学院生および教員も含めてディスカッションを実施しました。このディスカッションでは、新たな展望が挙げられるなどとても充実した共同研究活動であったと思います。そして、「環境ストレスに強い作物を開発するために、他分野・異国間との研究交流を通じて一つになる」ことが達成できたのではと思います。招へい者からは再来日して、次はもう少し長い期間研究活動をしたいと声をいただきました。また、研究室の日本人学生にとっては、研究の取り組み方や考え方の相違を身近に感じることでグローバルマインドを身につけていただけたと思います。

 最後に、このような機会を与えていただいた「さくらサイエンスプログラム」、快くご訪問をお引き受けいただいた神戸大学の先生方、本学の教員・学生・事務の皆様に心からお礼を申し上げます。