2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第056号 (Cコース)
ベトナムとタイの学生が安全で安価な飲料水を製造する膜分離技術を学ぶ
長崎大学からの報告
長崎大学大学院工学研究科水環境科学コースは、令和5年11月5日~11月11日にベトナムのハノイ建設大学、ベトナム国家大学ホーチミン市校自然科学大学、フエ科学大学、タイのチェンマイ大学からの合計8名(教員1名、大学院生1名、学部生6名)を長崎に迎え、「安全で安価な飲料水を製造する膜分離技術の研修」と題した科学技術研修コースを実施した。
近年ベトナムおよびタイを含む東南アジアにおいては、未処理下水の放流や海水の河川遡上により水道水源の水質悪化が深刻化している。しかし、この技術に係る水処理技術者は各国で不足しているため、本研修事業を通してベトナムおよびタイの大学の学生を招へいし、日本が世界トップのマーケットシェア及び技術力を誇る「逆浸透膜」(孔径1nm未満)や「ナノろ過膜」(孔径1~2nm)の理解を深めてもらうことを目的とした。さらに、本コースへの修士課程への入学や日本企業への就職などを通した将来の再来日、また将来母国で水道事業に携わる際に日本企業と連携してプロジェクトを進行するきっかけにすることを趣旨とした。
本事業では、膜処理技術全般を講義・演習・見学を通して知ることができるプログラム構成にした。まず、渡日前にオンデマンドの講義を実施し、最低限必要な知識を習得してから来日するプログラムを組んだ。来日後は、膜ろ過に係る3つのテーマ(浸漬型直接ナノろ過膜、イオン交換樹脂による有機物除去処理、凝集による懸濁物除去処理)に分けて長崎大学の学生および特任研究員のサポートの下で実習を行った。毎日の実習後、報告書を作成の上で成果を各グループで口頭発表させることによって報告書を書く能力を向上させると共に、それぞれの水処理技術に対する理解を深めるようにした。
さらに、実習とは異なるメンバー構成で3つのグループを形成し、海水を淡水化するためのプラント設計の演習を実施した。各グループは、逆浸透膜でさえ十分に除去できないホウ素を水道の基準値以下まで除去する手法をそれぞれ考案して実際の設計に反映させたため、各グループで設計結果が異なる面白い結果が得られた。
これら実験室や会議室で得られた知識を実際に見るために、佐世保市水道局の山の田浄水場の膜処理施設を見学した。本浄水場では、世界的に水道では珍しいセラミック膜ろ過設備を見学できた上に、貯水池の見学なども通して水が浄化されていく過程を学ぶことができた。
最終日のセミナーでは、実験室における実習と膜ろ過設備設計に関するグループ課題の成果発表を行った。短期間の研修であったが、ほとんど膜分離技術を知らない来日時の状態から、膜処理設備の設計思想まで話せるようになっており、目に見える成果が得られた。