2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第047号 (Cコース)
超伝導加速器用超伝導機器と低温システム
高エネルギー加速器研究機構
加速器研究施設 教授 仲井 浩孝さんからの報告
2023年9月7日から16日までの10日間、タイ王国のシラパコーン大学(Silpakorn University)、マハサラカム大学(Mahasarakham University)、チェンマイ大学(Chiang Mai University)およびラジャマンガラ工科大学イサーン校(Rajamangala University of Technology Isan)の4つの大学から、大学生および大学院生10名と引率者である教員1名の計11名を大学共同利用法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)に招へいして、超伝導加速器に用いられている超伝導機器や、超伝導機器を超伝導状態に保つための低温システムについての講義および実習を行いました。
講義や実習の内容は、過去に行ったプログラムとほぼ同じにしました。内容が過去の招へい者に好評だったことと、当然のことながら招へい者が毎回異なるために、毎回内容を変えるよりは好評だった内容を繰り返す方がタイの大学側からすればより多くの学生に同じ知識と経験を与えることができます。特に実習として行っている、手軽に超伝導を体験できる高温超伝導体の超伝導コースターの製作と実演、現在では高エネルギー加速器研究機構でしか行えなくなってしまった−271℃の超流動ヘリウムのデモンストレーションなどが人気となっています。
液体ヘリウム、特に超流動ヘリウムは、日本の大学や研究所等でも直接見る機会が少なくなってしまっているので、透明なガラス製の低温容器の中の超流動ヘリウムを実際に自分の目で見ることができ、非常に興味を引いたようです。タイの大学でも有名になっているらしく、これを見るために、シラパコーン大学の機械工学科長がこの実習日に合わせてKEKを来訪し、招へい者と一緒に液体ヘリウムが超流動ヘリウムに転移する様子や超流動ヘリウムのデモンストレーションをスマートフォンで撮っていました。この実習では液体窒素や液体ヘリウムなどの極低温液体を用いるので、凍傷や酸欠を防ぐために、実習は換気している広い建物で行い、また、招へい者には安全めがねと皮手袋を着用してもらいました。
この他に、KEKの超伝導加速器の施設見学を行い、講義で得られた超伝導加速器の知識と見学による実体験が結びつくようにしました。超伝導ソレノイド磁石を使用しているBelle Ⅱと呼ばれる巨大検出器では多くの外国研究機関との共同研究を行っており、タイを含む加盟国の国旗が飾られている中でBelle Ⅱの見学を行いました。
KEKでの講義や実習、施設見学以外にも、東京の日本科学未来館、つくば市内の宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センター、そして、つくば市に隣接する牛久市の牛久大仏の見学も行いました。また、今年度はタイ側からの希望で、つくば市にあるサイバーダイン社を訪問しました。サイバーダイン社が製作している装着型サイボーグの作動原理の説明を受け、実際に腕サイボーグ(片腕だけのロボット)の動きを体験しました。自分の腕にセンサーを取付け、自分の腕の動きと同じ動きをするサイボーグに全員が大変驚いていました。
このプログラムでは招へい者が受け身にならないように、今回もプログラムの終わりに、講義の内容を簡単にまとめた報告を招へい者にしてもらいました。講義で使用した図表を上手に取り込んで、それぞれが凝ったデザインのファイルを短時間で制作し、英語で報告を行いました。これで、多少なりとも講義の内容が招へい者の記憶に残ったのではないかと思います。
招へい者のアンケート回答や引率者からの意見では、今回もこのプログラムに満足しているようで、招へい側としては大変安心しました。タイの大学側からは毎年このプログラムを続けて欲しいとの強い要望がありますので、プログラムの内容の向上を続けながら、今後も続けて応募したいと思います。