2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第040号 (Bコース)
国際的な環境栄養研究拠点形成のための研究交流
広島大学からの報告
8月18日から8月26日までの9日間、タンザニアのムヒンビリ健康科学大(MUHAS)から研究・コンサルタンシー担当の副学長Bruno Sunguya准教授と若手教員3名、および国立のタンザニア食品栄養センター(TFNC)から若手研究員4名の計8名を招へいし、「国際的な環境栄養研究拠点形成のための研究交流」を、広島大学大学院医系科学研究科において実施した。
タンザニアでは、栄養失調や関連する疾患は子ども達に深刻な影響を与える重大な課題である。特に、環境から受ける影響を捉える新しい研究分野の発展が求められている。加えて、新しい技術を用いた栄養評価も求められている。本プログラムの目的は、実施主担当者である新福洋子教授研究グループと渡日研究者らがすでに計画している環境栄養研究を具体的な研究事業として立ち上げ、共同研究を計画している栄養検査キットを開発するユカシカド株式会社とともに、国際的な環境栄養研究拠点形成のための第一歩とした。
■日本の栄養研究・栄養評価技術の高さおよび社会発展・文化に感動
以下で活動の一部を紹介する。
1.研究室紹介、研究発表会と共同研究に向けた議論実施主担当者・新福の研究グループとMUHASは、国際母子保健分野における研究を15年共同研究として続けており、2023年2月に部局間協定を締結している。今回より深い議論ができるように、新福教授が実施してきた母子保健研究と陳三妹助教が実施してきた栄養疫学研究の詳細を紹介した。また、広島大学の田原優准教授の時間栄養学というマウスの体内時計測定などの研究についても講義を受け、栄養学の基礎研究についても理解を深めた。さらに、今後MUHASとTFNCと検討中の環境栄養研究を具体的な共同研究事業として立ち上げるため、課題を明確化し、将来的に解決したいテーマについて方向性を確認できた。
少量の尿で栄養状態を評価できる栄養検査キットを開発するユカシカド株式会社を訪問し、最先端の技術について説明を受けた。検査センターでの検査過程&製造工場「ユカシカドFACTORY」を見学し、より具体的な理解を深め、研究計画の方法論を固めることができた。さらに、栄養評価結果を活用した栄養処方と栄養改善について学んだ。
タンザニアの若手研究者を招へいしたことからユカシカド株式会社の製造工場の所在地である松本市の市役所を表敬訪問し、松本市副市長に本プログラムによる交流の意義と共同研究を説明した。松本市の歴史やホスピタリティを学ぶ機会となり、継続的な交流を通し互いに理解し合った強固な関係性を築いていくことに期待が寄せられた。
以上に加え、松本市で松本城のエクスカーション、東京都で浅草寺の参拝をするなど、魅力ある日本文化の体験を企画。更に広島市で平和記念公園資料館と原爆ドームを訪ね、世界恒久平和を希求し続けている広島文化に深く触れてもらった。
■本プログラムの効果と今後の展望
タンザニアの優秀な研究者を招へいできたことは大変に意義があった。以上の活動を通して、タンザニアからの留学計画や研究助成の共同申請など新たな研究分野での共同研究の実質的なステップを開始できた。中長期的には、定期的なタンザニアとの人材交流プログラムも確立し、研究科/研究所レベルの交流事業へと発展させる第一歩としたいと話し合った。さらに、招へい者らに検査キットを開発する企業・工場を見学する機会を提供し、招へいする若手研究者らもこれまで一般的な栄養評価を行ってきたが、先端技術を用いた産学連携、つまり産業技術・ビジネスとの連携を体験したことの意義は大きいと述べた。そして研究グループの発展という意味でも大きな進歩が期待できた。副学長Bruno Sunguya准教授はアフリカに広い人脈を持っており、広島大学との連携を互いの幅広いネットワークのさらなる拡大につなげ、そのようにして構築されるつながりを基盤として、タンザニアと日本の若手研究者の頭脳循環を促進することが期待できる。交流をサポートした大学院生の国際意識向上も大きな成果の一つとなった。