2023年度 活動レポート 第35号:九州大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第035号 (Aコース)

台湾の学生が沈み込み帯の地質現象と自然災害を学ぶ

九州大学大学院理学研究院 地球惑星科学部門
准教授 清川 昌一さんからの報告

 2023年8月24日から30日まで、国立台湾師範大学の地質学教室の学生がさくらサイエンスプログラムのサポートを利用して九州大学を訪れた。野外巡検を中心に6泊7日で滞在し、西南日本の中心部を走る中央構造線に沿って日本の代表的な地質帯、活断層、火山活動、地震の対策について学んだ。

 初日は、午後に福岡空港に到着し、TAの学生と共に宿泊施設を経由して九州大学に到着。日本の文化を知ってもらうため、交通手段にはあえて地下鉄やバスを利用してもらい、昼食もスーパー等を利用して調達してもらった。九州大学到着後は、日本の全体の地質について、また、翌日からの巡検の概要を解説した。時差もないため、説明・質疑応答もスムーズに進んだ。TAも各班に配置し、英語でのコミュニケーションを頑張っていたようだ。夕食は糸島のビーチにて、夕日が沈む美しい風景を見ながら、イタリアンを振舞った。翌日から始まる巡検に向けて、台湾/日本の学生共々打ち解ける良い機会となった。

 25日は九州山地を横切る球磨川の巡検を行った。球磨川は九州の土台をつくる付加体が分布しており、付加した海山の断片や海洋底にたまった放散虫チャートを観察した。海山の断片としては、枕状溶岩や三畳紀の大型化石(メガロドン)を含む石灰岩ブロックを観察した。夜は北上し、熊本県七城温泉に宿泊。夕食後、軽めのミーティングを行い、本日のまとめの発表会を行った。全4班に分かれ、毎日くじ引きで1~2班に発表をしてもらう。時間が限られているため、本巡検ではこのシステムを導入した。

活動レポート写真1
球磨川流域にて

 26日は、阿蘇火山の巡検である。立野溶岩から外輪山、先阿蘇の火山岩の断面を観察し、兜岩展望台にて外輪山からカルデラ地形を観察した。午後は阿蘇中岳に移動し、バスで山頂に移動して噴火口を観察した。近頃は非常に安定しているらしく、ずいぶん久々に火口内部の地層を見られた。阿蘇火山博物館では、1ヶ月前に新調した火口を覗くことができるカメラを使用し、現在の火口内部、噴出しているイオウや熱水が循環している様子等を観察できた。夜は波野のやすらぎ交流館にて、自炊をして鍋を食べ、その後、2班の発表会を実施した。

 27日は、阿蘇の火砕流堆積物を観察した。山の上部にある非溶結部分の火山砕屑岩、東洋のナイアガラを謳っている原尻の滝にて典型的な阿蘇4溶結凝灰岩を観察する。夕方、津久見に向かい、三畳紀末期の赤色放散虫層状チャートを観察した。夜は、別府へ移動し、ホテルに宿泊。広間を貸し切り、3つの班による発表会を行った。

活動レポート写真2
原尻の滝にて

 28日は、四国に移動。佐賀関–八幡浜フェリーで移動し、中央構造線沿いに、砥部、別子銅山を見学した。別子銅山では、旧別子銅山跡を見学し、観光化している廃坑跡(実際は火薬庫跡)を見学した。その後、徳島の中央構造線沿いを走り、東かがわ市やまびこ交流センターに宿泊。この日は移動が多かったため、発表会は行わず、翌日以降の旅に備えた。

 29日は、中央構造線沿い北側に分布する和泉層群を観察した。鳴門地域に露出するレキ岩や砂岩泥岩層(タービダイト層)について、特に様々な特徴のあるレキ岩に着目して、その流れと起源を考察した。午後から鳴門大橋の展望ルートを歩き夕方から秋の大潮でできる渦潮観察をボートに乗り体験する。渦潮は落差1mほどの水の滝ができ、それを補うように側方から水が流れることによって大きな渦を形成することがわかる。

活動レポート写真3
鳴門・和泉層群にて

 30日は、阪神淡路大震災に関連する2つの施設を訪れた。淡路島の北側にある北淡野島断層保存館では地震の跡地を覆って保存しており、4m程の断層断面が残されている。台湾の集集断層でも巨大なトレンチが残されているが、このような断層の保存により、相互比較検討ができて非常に良い。
 神戸では、震災記念館を見学した。ビルの壁には、津波による波の最大到達点38mが具体的に示され、その高さに圧倒された。縦方向の長さは、思うより圧倒的に長いことを感じた。
 その後、湾岸線で大阪の工業地帯を抜けて関西国際空港に到着。渋滞等もなく、スムーズに行程が進み、台湾の学生達も喜んで帰路に就いた。今回の巡検で、日本/台湾の学生らの交流も大いに進んだ。連絡先の交換なども行っていたようだ。今回の交流巡検は、長時間・長距離であったが、大成功であった。