2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第026号 (Aコース)
公衆衛生保護および気候変動対策をキーワードとした家畜糞尿管理技術の国際学習プログラム
金沢大学からの報告
2023年8月26日から9月1日まで、中国・清華大学から2名、カンボジア・カンボジア工科大学から1名、タイ・プリンスオブソンクラ大学から1名、インドネシア・アンダラス大学から1名、スリランカ・ルフナ大学から1名、インド・石油エネルギー研究大学から2名、バングラデシュ・チッタゴン大学から2名の大学生もしくは大学院生が来日し、金沢大学において本プログラムを実施いたしました。
本プログラムの特徴は招へい者の多様な国籍にあり、前述の通り東・東南・南アジアの計7カ国・7大学から計10名の学生を招へいいたしました。また、本プログラムには金沢大学の大学院生28名も参加し、この28名の国籍も考慮すると、東・東南・南アジアの計10カ国からの招へい学生および本学学生による活動となりました。このような参加学生の多様な国籍を活かし、本プログラムではアジア各国において様々な手法が用いられている家畜糞尿の管理方式を題材とし、「公衆衛生保護および気候変動対策の両方の観点を考慮して、アジア各国に適した家畜糞尿管理方式をデザインすること」をテーマとしました。具体的な活動としては、講義、研究室ツアー、施設見学、グループワーク、プレゼンテーションを実施しました。
招へい学生および本学学生は、工学系の学部もしくは大学院に所属しておりますが、専門分野は多岐に渡るため、事前学習として自国もしくは出身国における家畜糞尿管理方式の情報収集を実施頂くと共に、プログラム冒頭では、家畜糞尿管理に起因する喫緊の環境問題である、薬剤耐性菌の拡散と温室効果ガス排出の概要説明および、アジア諸国で用いられている主な家畜糞尿管理方式について、本学教員より講義を行いました。また、本学研究室ツアーを実施し、環境・エネルギー工学に関する最新の研究およびその実験装置をご紹介しました。本プログラムと関係の深い家畜用抗生物質の環境動態解明を実施している研究室においては、本学学生の研究発表および模擬実験も行いました。
公衆衛生保護と気候変動対策の両立の鍵となり得る家畜糞尿管理技術にメタン発酵バイオガス発電があり、国内でも数少ないバイオガスプラントである石川県中能登町のバイオマスメタン発酵施設を見学しました。施設全体の構成をご説明頂いた後、原材料である下水汚泥や食品廃棄物の受け入れ装置、マイクロ波照射による前処理装置、メタン発酵槽、バイオガスタンク、バイオガス発電装置、メタン発酵残渣の真空式乾燥機、乾燥汚泥肥料について見学させて頂きました。見学後には質問時間を設けて頂きましたが、招へい学生からは、メタン発生量の効率を上げるためにはどうしたら良いか、自分の国で同様の施設を作る際にはどのような問題点が考えられるか、原料は何が最適なのか、コストパフォーマンスはどうなのか、バイオガスタンクは事故のリスクはないかなど、予想以上に活発な質問があり、興味深く見学していたことが伺えました。
グループワークでは、招へい学生と本学学生を組み合わせた7~8人のグループを5つ作成し、グループ毎に対象国を1つ選定して、(ⅰ)対象国で使用されている現在の家畜糞尿管理方式、(ⅱ)対象国に最適だと考えられる家畜糞尿管理方式、(ⅲ)公衆衛生・気候変動・畜産場経営の観点における最適な家畜糞尿管理方式の利点と欠点について、講義および施設見学で得た知識に基づいてディスカッションしてもらいました。中間発表会では、各グループの発表に対して主に教員が発表構成や専門知識の観点から意見を述べ、最終発表会では主に学生間で質疑応答をして頂きました。最終発表会では良く考察され洗練された発表および、活発で質の高い質疑応答が行われました。本テーマを十分に理解した上で自分の考えで意見を述べている様子、国や文化の違う学生間においても高いレベルでのディスカッションが行われたことが伺えました。また、修了式後の意見交換会も含めて、学生同士は出身国や所属大学に関わらず終始仲が良く、信頼関係も築けている様子が伺えました。
終了後のアンケートでは、「バイオマスメタン発酵施設の見学や、多国籍の学生によるグループワークが特に良い学びになった。もう少し長い期間プログラムを実施したかった。」と答えてくれました。また、招へい学生だけでなく、本学学生にとっても素晴らしい経験になったと感じています。
最後に、多大なるご支援を頂きました「さくらサイエンスプログラム」および、本プログラムにご協力頂きました金沢大学の教員、職員、学生の皆様および、中能登町バイオマスメタン発酵施設の皆様へ、心より御礼申し上げます。