2023年度 活動レポート 第23号:神戸女子大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第023号 (Cコース)

ウダヤナ大学との福祉研修プログラム

神戸女子大学健康福祉学部社会福祉学科
教授 泉 妙子さんからの報告

 神戸女子大学は、さくらサイエンスプログラムの支援により、ウダヤナ大学医学部看護学科3回生3名と教員1名を福祉研修プログラムに招へいした。ウダヤナ大学と本学とは2010年1月に学術交流協定を結び、学生研修交流や国際共同研究を継続している。

 ウダヤナ大学の4名は、7月24日~8月2日の10日間、社会福祉学科において、「日本型福祉」の原理・原則を学んだのち兵庫県内の福祉施設、連携の近隣大学、京都・奈良の文化施設を巡るプログラムに参加した。兵庫県・京都市内の福祉現場においては、認知症ケア・地域包括ケアシステムなど福祉の専門性を確認できる研修や、震災を経験した神戸の世界に先駆けたリスクマネジメントの重要性を学ぶ機会もあり充実した10日間であったと評価を受けた。

【7月24日】

 国立ウダヤナ大学 医学部看護学科のPutu Ayu Emmy Savitri Karin講師と学生の3名が、須磨キャンパスにて多畑理事長、栗原学長、野口国際交流推進委員長を表敬訪問した。
 学生達は、それぞれが抱負を述べ、プログラム期間中に学びたいことや挑戦したいことなどを伝え意欲的な笑顔を見せていた。本学文学部日本語日本文学科に留学しているウダヤナ大学日本語学科の学生も参加し、両大学間の更なる交流が深まる機会となった。最後に、Emmy講師より栗原学長へ記念品が贈られ、大学からも各学生に文具などが贈呈された。

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【7月25日】

 神戸女子大学ポートアイランドキャンパスC館201研究室にて、「日本型福祉」を学んだ。学生たちは、いま日本が抱えている「閉じこもり・晩婚化・少子高齢化・8050問題」等、日本の経済的発展と同時に生まれた家族の持つ機能の低下・地域社会の脆弱化に対する課題に対して大きな研究意欲を見せた。活発な質疑応答が印象的である。

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【7月26日】

 日本の医療・福祉の中でも、社会保障・医療福祉・年金制度・介護保険の知識を学ぶことで、これから福祉が整備される自国に有益な知見を得たものと思われる。神戸女子大学の学生とともに日本の介護、「介護の暗黙知」についてディスカッションを行い、国内、アジア、世界の福祉について討議し、それぞれの専門分野からの視点で研究交流を行った。
 また、「事例に基づく支援の実際」について指導を受けた。19歳から事故による脊髄損傷の後遺症により車いす生活を送るMさんから、障害の受容・リハビリ・自立した生活など具体的な話を聞き、生き抜くために必要な支援を整える大切さを学んだ。

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【7月27日】

 特別養護老人ホーム愛の園・介護老人保健施設垂水すみれ苑を訪問した。生活支援・リハビリ施設を視察し、設備や介助の様子、看護師の役割などを見学した。ユニットで生活している人たちに「Baliダンス」を披露すると、涙を流して喜んだり、踊りの輪の中に加わったりと、高齢者の方たちにとても喜ばれた。

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【7月28日】

 兵庫県「人と防災未来センター」において、震災を経験した神戸の世界に先駆けたリスクマネジメントの重要性を学んだ。インドネシアの地震事例として、子守歌によるリスクマネジメントが語り伝えられていることを知り大変驚いていた。学ぶ面白さに期待を膨らませ生き生きとした表情が確認できた。

 神戸中央区「港島ふれあいセンター」(地域包括支援センター)では、互助グループとして、皆で支えあう活動に参加し、楽しい時間を一緒に過ごした。今回の研修の中で一番印象的であったと2名の学生が答えている。頭の体操やゲームに参加し、地域コミュニティの大切さ、介護予防の意義を学ぶことができた。

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【7月29日】

 京都華頂短期大学において、在学生とともに演習授業に参加した。その後世界遺産である清水寺を訪問し、日本の文化・歴史に触れる時間を楽しんだ。また日本の暑さに驚いたが、京都の魅力・文化に圧倒され日本の歴史を感じる一日となった。

【7月31日】

 ポートアイランド大学4大学連携先である、兵庫医科大学と神戸学院大学を訪問した。兵庫医科大学では、助産師を目指すコースの学生と交流し、赤ちゃんの沐浴を実際に見学した。神戸学院大学では、昼食を神戸学院の学食でとり、他の学生とキャンパスライフを楽しんだ。窓からは、実習船が両大学西側に着岸している姿が見え、ポートライナーからはポートターミナルにダイヤモンドプリンセスが入港し、港町神戸の雰囲気を楽しむことができた。4大学連携事業の説明を受け、今回の両大学見学が可能になった背景を知ることができた。

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 今回の研修は、日本の福祉の現状と課題、それらに対する「介護の暗黙知と可視化」という日本型福祉の紹介である。研修背景として、インドネシア・バリ島にある国立大学ウダヤナ大学の学生は、医学部をはじめ日本留学に人気がある。また、日本語学科の学生は、日本語を生かす観光やビジネス業界に職を得るため、日本人以上に歴史や文化を学んでいる現状があった。2016年より「さくらサイエンスプログラム」において、福祉分野の学習を加え、ウダヤナ大学の教育の中に新しい研究フィールド(社会福祉・介護福祉・精神福祉)を紹介することが可能となった。さくらサイエンス事業の支援により、さらに学生の達の間で日本に対する社会福祉分野にも興味関心が高まったと言える。

 看護学科のEmmy先生(精神科看護)は、「日本社会で問題になっている中高年の閉じこもり・精神疾患の増加について興味が深まり、今後の研究課題として取り組んでいきたい」と語った。また、学生たちは、晩婚化・少子化等、日本の経済的発展と同時に生まれた家族の持つ機能の低下・脆弱化に対する課題に対して大いに興味を持ったようである。

 少子高齢社会を迎えている日本にとって、福祉の充実は避けて通れない課題であり、本研修のテーマである介護に対する「暗黙知」の存在と「可視化」の重要性と実践は研究が進められる分野である。日本が失った家族機能や地域で支えあうコミュニティは、ヒンドゥー教徒であるバリの人々の中に「暗黙知」として存在し、生活の中では福祉の心が深く根付き、ノーマライゼーションの概念を知らなくても支え合う人と人との絆が確認できる。バリの人々に根づく家族機能や地域力を失わないために、それらの意味や価値を正しく継承できる専門性が求められていると言える。

 インドネシアにおける大学教育にたずさわる研究者の新しい研究フィールドの拡大と日本の研究者との教育連携・研究交流を継続する必要性を確認した。これらの機会は、必ずアジアの将来を担う若い学生に多大な影響を与えるものと予想できる。若い学生が日本の福祉を学ぶことによって、将来の自国を背負う専門職として活躍できることを引き続き応援していきたい。