2023年度 活動レポート 第11号:長崎大学

2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第011号 (Bコース)

日中伝統庭園の鑑賞とリラックス効果の関連性に関する共同研究

長崎大学環境科学部
教授 五島 聖子さんからの報告

 B.共同研究活動コース
 招へい期間:7/24~8/2
 受け入れ機関:長崎大学環境科学部
 送り出し機関:蘇州科技大学建築都市計画学院

【日本庭園の伝統美の体験】

 受入れ機関と送出し機関は、「日中伝統庭園観賞による鎮静効果に関する研究」を、大学院生と関連専門分野の教員を交えた共同研究に拡大することを目標とし、これまでに学術交流協定を取り交わしている。送出し機関が所在する蘇州は「中国の京都」と呼ばれ、古庭園が数多く存在する古都である。そのため送出し機関には古庭園に関心を持ち、受入れ機関に留学を希望する学生も多いが、日本庭園は多くの側面で中国の影響を受けているので、中国では日中の庭園が同一視される傾向にある。そこで共同研究を遂行する上で、まず参加研究者によって日本庭園と中国庭園の差異が把握される必要があると考え、本交流計画を企画した。

 本交流計画では、受入れ機関に留学を希望する送出し機関の引率者1名他大学院生5名を、オンライン授業とともに、以下の行程で日本招へいを行った。

7月25日 午前:「無鄰菴」において庭園鑑賞によるリラックス効果の実験
午後:南禅寺において剪定実習
7月26日 下鴨神社、上賀茂神社を訪ね、神道における自然観、「斎庭」の思想を学ぶ。
7月27日 平等院鳳凰堂、二条城にて寝殿造及び書院造における庭園の関係を学ぶ。
7月28日 天龍寺、龍安寺において方丈建築と庭園の関係を学ぶ。
7月29日 長崎に移動
7月30日 長崎市の出島、グラバー園、長崎歴史博物館において、長崎と中国の歴史的貿易関係と近代史について学ぶ。
7月31日 長崎県島原市島原城と雲仙市ジオパークを視察し、長崎の地形とそれに伴うキリシタン迫害の歴史を学ぶ。
8月1日 最終日には、長崎大学においてワークショップの成果発表を行い、長崎大学の教員と大学院生との親睦会を行うとともに、原爆資料館を訪問。
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無鄰菴にて庭園鑑賞のリラックス効果の実験をする

 本交流計画では、まず京都において古庭園における観賞によるリラックス効果の予備的な実験を実施するとともに、座観式庭園の形態、目的、管理技術の特徴を4日間の日程で紹介した。特に座観式庭園では、決められた視点からの景観を維持するために、どのような伝統的な管理技法が用いられるか実習を通じて説明し、中国とは異なる日本の自然観と「庭」に対する思想、建築と庭園の関係、そして瞑想の庭について説明をした。

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南禅寺において庭園管理の実習をする
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天龍寺において庭園と瞑想に関する議論をする

 招へいされた5名の学生は、今回が初めての海外渡航であった。彼らは出国前にオンラインで日本庭園の歴史や形態について事前学習をしたが、実際に庭園を訪れるとかなり印象が異なったようである。学生は、様々な場面において、日本庭園が中国庭園と同じような材料を使いながら、全く中国と異なった空間が創出されていることに驚きを表した。

 特に今回の旅程は、送出し機関の夏休み期間に合わせて決定したが、連日38度を超える猛暑に見舞われ、炎天下での白砂の庭園観賞は、まさに石で焼かれる状態であった。それにも関わらず、参加者全員が白砂に石が置かれただけの龍安寺の庭園で、最もリラックスしたと感じたと答え、さらに中国庭園でもリラックスを感じることはあるが、龍安寺の中で感じるリラックス感は異なる種類のものであると答えた。つまり招へいされた学生は、龍安寺に代表される座観式庭園が、国籍を超え、劣悪な気象も超えて観賞者にリラックス効果を与え、その効果の質が中国庭園とは異なることを、実験結果の数字からだけではなく、実感として理解したのである。

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天龍寺で庭園観賞とリラックス効果を体験する

 参加した送出し機関の学生は、日本文化や日本庭園に関する情報はインターネット上で容易く検索することができるが、ネット上の情報は信憑性に問題があり、その真偽の判断は自らの目で確かめる必要があると述べた。また、今回、日本庭園を実際に訪れ、その観賞の効果を体験できたことは、共同研究の仮定の理解に繋がり、日本留学の決意を固めたと話した。本交流計画は、日中の学生に交流の場を与えただけでなく、中国の学生に日本庭園とその伝統美の独自性を体験させ、今後の建設的な共同研究と公平な研究成果に繋がる布石となったと言える。