2023年度活動レポート(一般公募プログラム)第001号 (Bコース)
腫瘍特異的な抗癌剤の開発を指向した
抗AspH阻害活性カメルーン産天然資源の探索
富山大学和漢医薬学総合研究所からの報告
「さくらサイエンスプログラム」により、2023年6月1日から6月20日まで、カメルーン・ジャング大学理学部から2名の大学院生と1名の若手教員、および引率の教員として同大学の准教授が来日しました。本プログラムは、癌の増殖等に深く関与している癌特異的な酵素AspHに特異的阻害剤活性を示すカメルーン産天然資源由来の化合物を得ること、および実施主担当者らとASEANの研究者らでなる「AspH阻害剤の開発」を目的とした国際共同研究へのカメルーンの研究者の参画を図ることを目的に実施しました。
初日の6月1日には、富山に到着後すぐに本プログラムの実施場所である和漢医薬学総合研究所天然物化学研究室に直行し、持参したカメルーン産の植物抽出液や部分精製した試料の確認と保存を行いました。また翌日からの本格的な実験の開始に向けて、使用する実験器具や機器について説明を受けました。カメルーンでは使用することができない試薬や精製機械を見て、翌日からの実験に胸を弾ませる初日となりました。
翌日の6月2日には本事業の実験の打合せを行い、その後、持参したカメルーン産植物の抽出液について活性測定を行いました。数種の植物抽出液に弱いながらも活性を確認することができたので、これらからの化合物の精製を開始し、これを毎日朝早くから夜遅くまで最終日まで続けました。招へい研究者は、カメルーンではこれまでにHPLC装置を用いたことがなく、使用にあたって緊張していましたが、HPLC操作を繰り返すことによって化合物の純度が良くなっていくことを喜んでいました。また、抽出液からの化合物の精製と並行して、招へい研究者らは来日前に既にカメルーンにて部分精製していた試料についても精製を行いました。カメルーンでの精製操作の時には一つの化合物まで精製することができなかった試料も中には含まれていましたが、HPLCを用いることで3つの精製化合物を得ることができ、招へい研究者らは大変満足していました。
精製することができた化合物については、HPLCと質量分析装置が連動したLC−MSを用いて化合物の純度や質量を調べました。また、化学構造を決定するために、より詳細な情報の得られるNMRスペクトルについても測定しました。LC−MSやNMR装置は特に高額な機器で、これらの使用に関して招へい研究者らは特に感銘を受けていました。NMRスペクトルの測定は、HPLCで化合物が精製できる度に行い、帰国前には多くの化合物のスペクトルデータを得ることができました。これらのスペクトル解析によって新規化合物が一つ得られていることがわかりました。今回のプログラム期間中で最も大きな成果でした。この成果については、さらに詳細なデータを揃えた後、国際学術雑誌にて報告する予定です。しかし、これらのスペクトル分析のデータをもとに化学構造を予測するわけですが、それらのデータの取得には時間を要し、来日中に精製ができた化合物のスペクトルデータを全て得ることはできませんでした。これらは引き続き、実施主担当者らの研究室で進めていきますが、各種スペクトルデータを効率良く得ることができる仕方を考えておくことが今後の課題として残されました。
6月19日には精製した化合物の一部についてAspH阻害活性試験を行いました。残念ながら今回調べた化合物はいずれも活性を示しませんでした。残りの精製した化合物についてはプログラム期間中に活性を測定することができず、プログラム終了後に実施主担当者らが活性を調べることにしました。また、同日には、引率教員が研究成果を報告しました。
最終日の6月20日は実験の片付けと実施主担当者らがプログラム終了後も引き続き活性測定を行う試料の引き継ぎなどを行いました。その後、修了式で森田教授から各人に修了証が授与されました。また、アンケートでは、全員が今回の訪日に対して「非常に満足」と答えてくれました。「さくらサイエンスプログラム」により、とても有意義な国際交流の機会をいただいたことに、心より感謝申し上げます。