2022年度 活動レポート 第165号:北海道大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第165号 (Bコース)

原因不明の慢性腎臓病(CKDu)との関連が疑われるげっ歯類媒介姓人獣共通感染症の迅速診断法の確立

北海道大学からの報告

 北海道大学は人獣共通感染症の分野について、世界をリードする業績を挙げている。今回の共同研究のテーマであるスリランカの原因不明の慢性腎臓疾患(CKDu)は、ウイルス感染症との関わりは検討されてこなかった疾病である。ミステリアスな死に至る病として1990年代から国家的な公衆衛生上の問題となっている。我が国の技術と背景に加え北海道大学とペラデニア大学の継続的な共同研究により、はじめてハンタウイルス感染症とCKDuとの関わりが示された。さらに、スリランカでのげっ歯類の調査により、スリランカのマウスとラットがそれぞれ新規の二種のハンタウイルスを持つことが明らかとなった。しかしながらどちらのハンタウイルスがどのように発症に関与するのかは不明であり、これを解明することが新たな課題となった。疾病と病原体の関連を解明する目的のため、迅速な鑑別診断法を用いてデータを収集することが必要である。本交流ではCKDu流行地のげっ歯類が持つ三種類の人獣共通感染症の病原体、二種類のハンタウイルスおよびレプトスピラの迅速診断法を開発することを最終的な目的とした。

 今回招へいしたPavaniさんはスリランカでのげっ歯類の調査にも加わり、新規ハンタウイルスの発見につながる研究に参加した経験を持つ大学院生である。すでにスリランカでは蛍光抗体法による血清診断法を実施し、結果を得ている。今回はより多くの検体をスクリーニングできるELISA法および地方の病院やベットサイドでも抗体検出が可能であるイムノクロマト法、簡便にウイルス遺伝子を検出するためのリアルタイムPCR法を学ぶことを滞在期間中の目的とした。

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実験室で先輩の説明を聞いている。少し緊張している様子。

 ELISAに使用する精製抗原は、スリランカからの留学生である大学院生のSithumini Lokpathirageさんが準備をしてくれた。しかしながら、一方的に提供を受けるだけではなく、その作成方法について、詳細を彼女から直接学ぶことができた。滞在期間中には順調にさまざまな診断法とその原理を学び、条件検討についての実践を経験することもできた。実験手技のみではなく、大学院生と実験室におけるコミュニケーションをとり、さらに、セミナーに参加して実験結果をともに検討することで、研究マインドを肌で感じることができた。研究によってスリランカの問題を解決することに対するモチベーションを高めらることができたと確信している。

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セミナーに参加

 Pavaniさんにとって今回の来日は初めての海外体験であった。国際学会の多くがオンライン開催となり、旅費が支給されるTravel Awardを受けることができても海外での経験を積むことができない状況であった。彼女だけでなくコロナウイルス蔓延のために多くの大学院生が体験する機会失った。そのような状況で、今回来日することができたことを彼女は本当に喜んでいた。
 寒さについて心配していたが、防寒具を研究室のメンバーが予めそろえて借りることができ、初めての雪を楽しむことができた。札幌のスープカレーも辛いもの好きのスリランカ人には好評で、やはり彼女も気に入ってくれた。今回の共同研究の一部については、すでに学術論文として国際誌に投稿する準備が進んでいる。この冬を体験することができたことで、札幌の寒さへの心配もなくなり、北海道大学の博士課程への進学を目指すこととなった。これは北海道大学の受け入れ教員としてとても嬉しいことである。

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大学構内のカフェレストラン、北大マルシェでスープカレーにトライ