2022年度 活動レポート 第161号:九州大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第161号 (Bコース)

アジアにおける歴史的都市の持続的発展を担う人材育成のための
国際交流型環境・遺産デザイン教育研究プログラム

九州大学大学院芸術工学研究院からの報告

 九州大学大学院芸術工学研究院の環境設計グローバル・ハブ(以下、eghub)では、昨年に引き続き、2023年2月5日から18日までの2週間、「アジアにおける歴史的都市の持続的発展を担う人材育成のための国際交流型環境・遺産デザイン教育研究プログラム」を実施しました。
 eghubのglobal memberであるアジアの4つの大学(台北科技大学、プレミア大学(バングラデシュ)、ラオス国立大学、カンボジア工科大学)から引率教員2名、若手教員5名と学部生を1名、合計8名をさくらサイエンスプログラムの支援で招へいしました。コロナ禍で一昨年は中止、昨年はオンラインで開催したので、3年ぶりの対面での実施となりました。

 初日は、参加者各自の自己紹介のあと、プログラムのオリエンテーションを行い、大橋キャンパスの施設や教員の研究内容を紹介するキャンパスツアーを実施しました。2日目は、オープニング・シンポジウムを開催し、各国の都市の文化遺産保全の現状、都市遺産保全の課題について参加者で共有しました。

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カンボジア工科大学の学生によるオープニング・シンポジウムでの発表の様子

 3日目は、デジタルスキャナーを使った建築物の測量実習を行い、最先端のデジタル技術を使った空間アーカイブの重要性を学びました。4日目は、福岡市内の歴史的建造物や現代建築を見て回り、歴史的建造物のアダプティブリユースについて学びました。5日目は、ドローンを用いたデジタル測量について実習しました。

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福岡における文化財の見学
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ドローン実習風景

 6日目以降、実習の場所を関西地区へ移し、より実践的な学びを行いました。京都では、国宝大徳寺方丈の保存修理現場を見学し、素屋根の下で建物を部品の一つ一つまで解体し、傷んだものを修復し、場合によっては新しいものに置き換えて、再度組み立てるという伝統建築の保存修理方法について学びました。また、その過程を記録として残すことの重要性について学びました。国宝平等院鳳凰堂の見学では、1000年以上建築物が残るということの意義、また、保存だけではなくその文化財の観光活用の重要性について学びました。

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大徳寺方丈の修復現場の見学

 神戸では、竹中大工道具館を訪問しました。竹中大工道具館は、縄文時代から昭和までの木造建築に使った道具の実物や複製を年代順に紹介する展示が行われており、カンナやノミ、ノコギリ、墨掛道具などのほか、石斧や鉄斧なども収集されていました。唐招提寺金堂の柱や屋根の原寸大での復元模型から日本の伝統的な木造建築の「木組」の技術や、大徳寺玉林院にある茶室「蓑庵」の柱や梁から竹組みまでの骨格をむき出しにした復元模型で数寄屋造りの技術を確認しました。参加者は建造物の保全だけでなく、それを支える技術の重要性やその伝承の大切さについても学びました。

 広島では、広島市、JR西日本、広島電鉄の3者で進める、広島駅南口広場全体の再整備計画の施工現場、広島平和公園、厳島神社を訪れ、広島駅南口広場新築工事現場では、日本の現代建築の施工の様子を見学しました。平和記念公園では、被爆の惨禍を伝える歴史の証人であり、核兵器廃絶と恒久平和を求める誓いのシンボルである原爆ドームを見学し、廃墟から文化遺産へ移り行くさまを学びました。また、高層建築物等の建設により眺望景観が阻害されるおそれのある範囲として、丹下健三が設計した広島平和記念資料館から慰霊碑、原爆ドームへの軸線が、原爆ドーム北側眺望景観保全エリアとして設定され、建築物および工作物の高さも制限されている等、文化財としての保全だけでなく眺望景観保全の必要性についても学びました。

 最後に参加者が日本で学んだ知識をもとに、それぞれの国・地域の都市遺産保存の課題について意見交換を行いました。クロージング・パーティを行い、修了証を交付するとともに親睦を深めました。このような機会を作って頂いたJSTさくらサイエンスプランに感謝申し上げます。これをきっかけに、eghubを中心としてアジア間の教育・研究の交流をますます活発にしていきたいと思います。

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クロージング・シンポジウム後の集合写真