2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第140号 (Aコース)
『みんな違う』で考える健康と福祉
産業医科大学からの報告
韓国5名、米国4名(内教員1名は自費)、インド8名(内教員1名は自費)計17名を招へいし、全体を通して「『みんな違う』で考える健康と福祉」というテーマを設定し、交流を企画した。日本と韓国については、隣国ということもあり相互に文化の交流も比較的多い。しかし、この情報過多の時代にあっても、インドやアメリカについて、友人でもいない限り、関心を持って同世代の若者の生活の様子や社会情勢について知るモチベーションをもつ日本人の若者は多くはない。日本や韓国は単一民族国家でもあり「皆同じ」を前提にした社会的規範が広く共有されている。一方、多様な人種や言語を話す人たちによって計施されるインドや米国は「皆違う」を前提にしている。今回の交流の目的は、このような文化的な根源からの違いも含め、相互にどんなに違っているかを知り、その違いを受け止め合う機会となるように計画した。
初日の午前中は、学長への表敬訪問の後、本学学生たちがガイド役になり、キャンパスツアーを行った。大学構内にある大学・大学病院職員向けの保育園を紹介した際、未就学児童の育児サポートや医学部生や看護学生のキャリア形成における家族について語り合うような場面もあった。午後は、現在建設中の急性期診療棟を内覧した。ヘルメットを被り、これから搬入される最先端の医療機材の説明を受けながら、建物の中を視察した。この後、医学部生を中心に、医療人材の育成や教育制度などについてディスカッションする時間を設け、ウェルカムパーティで初日を締めくくった。
2日目は、稀な大寒波襲来で雪の降りしきる中をバスで移動し、糟屋郡粕屋町を訪問した。渡邊保健師に粕屋町の地域保健行政の取り組みを紹介してもらい、各国の母子保健、生活習慣病予防、高齢社会の課題などに対する公衆衛生の仕組みについて知り合う有意義な時間となった。午後は本学の3名の若手教員から研究を紹介し、相互に意見を交換する時間をとった。いずれに対しても関心が高く活発にディスカッションした。
3日目は産業保健に焦点を当て、午前中は職域保健でも重要な課題の一つである禁煙対策について、本学産業生態科学研究所 健康開発科学の大和 浩教授から講義を受けた。講義後も活発にディスカッションし、その中で各国の比較によって、我が国の禁煙対策の遅れも浮き彫りになった。午後は地元企業を訪問視察した。まず安川電機株式会社で最先端のロボットの製品の製造過程を見学し、技術の開発の歴史を学んだ。日本の「ハイテク」というイメージをそのまま表現し、体感できる展示施設で各国の学生たちは大興奮の時間を過ごした。その後、シャボン玉石けんを訪問した。北九州市のみに工場がありながら、世界に輸出される無添加石鹸や関連商品について製造の過程の説明を受けた後、工場で石鹸として製品になる過程を見学した。また、ロジスティックを司る配送準備のための拠点倉庫を見学し、省スペースで効率的な仕組みに対して皆感嘆の声を上げた。
最終2日間は「トイレ」に関するワークショップを行った。まず、世界トイレ協会会長であるジャック・シムズ氏にオンラインでの講演を聴き、「トイレ」にまつわる課題がいかに多面的かを共有した。インドからは最近もトイレに関して社会的な問題としてメディアに取り上げられていることなども紹介してくれた。午後には、地元企業であるTOTOミュージアムを訪問し、トイレの歴史などについて学んだ。翌最終日に、3つの混合チームがいずれかの国のトイレに関連する課題を取り上げ、課題の解決策を提案するワークの時間をとった。いずれのチームも短時間で問題を考察して、改善・解決策を提案した。
締めくくりの修了式の際には、中富准教授が能について説明、実演した。インドの学生・教員はインド国内の各地のドレスを纏い、各地域のダンスを披露した。宴もたけなわの中、修了証を授与し名残惜しい雰囲気の中でエターニティ・サークルを作って一言ずつ感想を言う時間をとった。
全体を振り返って、活動を通して各国における課題がいかに社会や文化と結びついているかをしっかりと共有できた。そのような経験を通して、違うが当たり前で、それを認め合うことで、相互理解が進むということを体感できる良いプログラムにできた。