2022年度 活動レポート 第137号:慶應義塾大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第137号 (Bコース)

細胞内エネルギー量の微量サンプルからの定量測定技術の開発

慶應義塾大学からの報告

 さくらプログラムにより、フィンランドのTurku大学の修士課程に在籍するTitta Yli−Holloさん(以下、愛称であるTittaで記します)を11月29日から12月14日まで日本へ招へいすることができた。Turku大学はフィンランドで第2位の規模を持つ大学である。Tittaが在籍しているラボでは、遺伝子工学とケミカルバイオロジーを組み合わせ、細胞内エネルギー分子の微量サンプルからの定量測定について独自の技術を開発されている。今回の招へいは、その技術についてホスト研究者・佐々木敦朗の所属する慶應義塾先端生命科学研究所・Institute of Advanced Life Sciences(以下、慶應先端研と記す)へ導入し、さらに技術の応用とさらなる開発について取り組むことを主眼とするものである。

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先端研にて技術紹介

 Tittaは、生まれも育ちもフィンランド。ヨーロッパ諸国や米国への訪問の経験はあるが、日本はもちろんアジア圏への訪問も初めてであった。フィンランドは英語も通じるが、フィンランド語が公用語である。ともすれば、言葉と文化の壁に困難もともなうところであるが、持ち前の明るい笑顔とチャレンジ精神で、来日したDay1から日本の交通システムを使いこなし、お店での注文や買い物にも行っていた。お店では、Tittaが英語で話し、店員さんが日本語で答えるというシーンがよく見られたが、不思議とコミュニケーションができているのが印象に残る。海外留学を躊躇する理由に言葉の壁について多くの方が心配されるところであるが、そんな壁などはあるとしても薄く簡単に乗り越えてコミュニケーションしていけるものだとも思った。

 そこへいくとラボ環境というのは実に世界共通のことが多い。ピペットマンやチューブ、遠心機に用いるバッファー。Tittaは、慶應先端研において、まるでずっと在籍していたメンバーのように実験を立ち上げていった。そこにはバディを担当した大坂夏木研究員(2023年4月から東工大助教)のサポートも大きかった。大坂さんは留学経験こそないが、英語については大学生のときから取り組んでいた。そうしてコツコツ積み上げたものの力はまた大きく、大坂さんとTittaは見事なコンビネーションで実験系をあっという間に慶應先端研で再構成した。さらに二人は研究所内でのデモンストレーションを行う案内を作り、各ラボを訪れて宣伝活動も行った。

 あとで聞くところ、Tittaは、もともとは控えめでこうして人前に進んでいくことはあまりしない性格とのこと(日本人の気質とフィンランド人の気質には似たところがあるとも言っていた)。大坂さんも同じようなところがあるが、二人がコラボをすることで、自分たちの殻を打ち破るような力が発揮されたように感じられた。慶應義塾大の学生の方々にも大きな刺激となり海外留学、とくにヨーロッパ方面への留学への関心が高まった。これは、Tittaからヨーロッパの研究事情を生で聞けた事が大きい。友人となった慶應義塾の修士2年の・鈴木結香子さん、学部3年生の小川茜さんと、温泉など日本の文化も体験した。

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慶應義塾大先端研で実験系を立ち上げるTittaと大坂さん

 こうして慶應先端研への技術導入は、フィンランドと日本、それぞれの文化も入り交えつつ成功し、先端研の研究の厚みがひろがり、代謝や分析学そして工業的スクリーニングなど幅広い研究テーマへの新たなアプローチが可能となった。

 Tittaは非常にモチベーションが高く、幅広い分野の研究者が集まり英語環境で発表とディスカッションも行われる分子生物学会へも参加した。千葉県幕張で行われた分子生物学会に3日間フル参加し、ポスター会場のある展示会場でホスト研究者がだしていたGTP GEEKSブースにて、Tittaらのグループで開発された技術について積極的に紹介をされていたのが印象に残る。昨今のCOVID19の状況のため海外からの研究者の参加は少なかったが、その中で多くの研究者とTittaは交流することができ、学会の活性化につながったと考えている。

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分子生物学会GTPブースにて

 Tittaは日本の様々なシステムや文化に大きな感銘を受けたようだ。浅草にも訪れる機会があり、そこでは家族や友人へのお土産や、自分の記念にピアスなど手にとっていた。食事についても、お刺身から納豆そしてイカの塩辛まで、様々な日本食にトライして、どれも気に入っていたようだ(塩辛は微妙みたいだが)。なかでもお蕎麦が気に入ったようで、ホテルの朝食ビュッフェでは毎回お蕎麦をとっていた。大変嬉しいことに、Tittaは、再来日への期待を述べている。Tittaと慶應義塾メンバーおよび学会などでの交流からの絆を実感されていることによると思われる。

 本招へいは学会参加と続く研究所での招へい者によるセミナーなどを通じ、日本とフィンランドの科学交流を促進する大きな成果と影響を得、大成功したと考えられる。最終日、晴れ渡る青い空のもと、羽田空港への見送りの際にTittaの耳に鶴のピアスがキラキラ揺れていたことが今も印象に残る。各関係者に心より感謝申し上げる。

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先端研にて