2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第121号 (Aコース)
マレーシアの学生が日本の材料科学と環境工学に関する最先端技術を学ぶ
大阪大学からの報告
本交流はマレーシアプトラ大学(UPM:Universiti Putra Malaysia)から引率者を含め、若手研究者および大学院生8名が、日本の材料科学と環境工学に関する最先端技術の見学と実習による育成を主たる目的として来日した。材料科学と環境工学に関する体感実習に加え、日本文化に触れることを通して大阪大学の学生との交流を深めるとともに、専門研究分野における学生間の協力関係も築くことができ、マレーシアと日本の間における友好的な視野を広げられた。
大阪大学大学院工学研究科宇山研究室おいては、お互いの文化や生活習慣など、学生の視点から紹介し合うことで活発な交流を行った。当研究室に留学しているマレーシアの学生をはじめとするミャンマー、タイ、べトナム、ブルネイ、スリランカといった東南アジアの留学生や近隣の中国、韓国、さらにはアゼルバイジャン、ハンガリー、エルサルバドル、アンゴラなどの多彩な国々の留学生との交流の場を設定した。コロナ禍で国際的な交流に制限が続き、自国では一度に多国籍の学生と交流する機会が少ないことから、大変好評であった。
大阪大学内の協働研究所や総合学術博物館の見学では、日本の産学連携による技術開発や事業化を目指した企業の取組みに関する見識を深めた。京都市の島津創業記念館では、日本における産業技術の発展の過程を実体験をもとに垣間見ることができた。その後、京都国立博物館まで足を運び、日本の国宝や重要文化財を観覧することで日本文化に対する見識を深めた。特にこれらにおける材料の観点からの視点、例えば、漆器の塗装における漆の重要性を科学的な観点から説明した。天然塗料は日本、東南アジアに共通する部分も多く、UPMの若手研究者が強い関心を示した。
大阪大学工学研究科応用化学専攻にて最先端の科学技術、特にナノ材料研究の最前線を理解する体験学習を行った。走査型電子顕微鏡を用いた多孔質材料のモルフォロジー観察、マスコロイダーを用いたナノセルロースの作製、ポリグルタミン酸を用いた水質浄化実験等をテーマとして設定した。世界トップレベルの科学技術を肌で感じさせ、日本の大学における研究の一端を理解させた。研究室の最先端装置を用いた機器実習では開発中の材料や分析データを示すことで、物性・機能評価の実践を経験させるだけでなく、得られた結果を通じて若手研究者間で活発な議論が行われた。このような体験実習や議論の場はUPMの若手研究者のみならず、当研究室の大学院生に対する有益な人材育成になった。
プログラムの後半では、当研究室の博士後期課程大学院生と材料科学と環境工学の研究に関するディスカッションを行い、お互いの研究について意見交換を行った。バイオマス資源を豊富に有するマレーシアでは、バイオマス資源の利活用に関する研究は重要なテーマとして位置付けられており、当研究室で進めるセルロース、デンプンをはじめとする天然資源をベースとする材料開発に強い関心を示した。一方、日本人学生にとっては、バイオマス資源のあり方をUPM側から説明を受けることで新たな気付きとなった。このような両国間の各々の強みを若手研究者間で理解しあう場は今後の研究課題や将来の研究指針に対する良い刺激となり、グローバルな視点から研究を進める一助になったと実感している。
留学や再来日を検討したいというアンケートによる感想から、最先端科学技術を通し若手研究者・学生の交流は日本とマレーシアの将来的な橋渡しにつながる将来的な礎になったと期待したい。コロナ禍によりオンラインによる議論や研究会も多く開催されるようになった昨今ではあるが、このような草の根的な交流はFace−to−Faceの繋がりであるため、表面的な交流と異なるものであり、今後の交流のきっかけとなることを願っている。