2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第119号 (Cコース)
超伝導加速器用低温システムの基礎と応用
高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
教授 仲井 浩孝さんからの報告
2023年1月12日から21日までの10日間、タイ王国のシラパコーン大学(Silpakorn University)、マハサラカム大学(Mahasarakham University)およびラジャマンガラ工科大学イサーン校(Rajamangala University of Technology Isan)の3つの大学から、優秀な大学生および大学院生9名と教員1名の計10名を大学共同利用法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)に招へいして、超伝導加速器における超伝導機器や低温工学の利用についての講義および実習を行いました。
ラジャマンガラ工科大学イサーン校からの招へいは今回が初めてとなります。当初は2022年8月に実施する予定でしたが、新型コロナウイルスの感染が拡大している時期(第7波)だったため、上記の期間に延期しました。KEKの新型コロナウイルス感染対策本部の指導により、毎日の検温やマスクの着用、講義・実習中の換気などを行ったため、お互いの素顔を見たのは集合写真を撮る一瞬だけで、また、講義の最中も、窓を開け、サーキュレーターを作動させていたため、暖房を入れていても、招へい者はみな厚着をしたままの活動となりました。その忍耐の成果があって、招へい者にも受入れ機関の職員にも新型コロナウイルス感染者を出さずに、無事プログラムを終了することができました。
招へい者はほぼ全員が大学の工学部あるいは工学部に類似した学部に所属していますが、必ずしも日本の大学の履修科目とは一致していないため、例えば、熱力学や電磁気学は履修済みという前提で講義を始めると、実はまだ履修していなかったりすることもあり、超伝導についての基本的な知識はあるようでしたが、日本でもあまり講義が行われていない超伝導加速器や低温工学についてはほぼ学習経験はないようでした。したがって、今回のプログラムでは、超伝導加速器の重要な機器である超伝導磁石と超伝導高周波空洞、さらに、それらを超伝導状態に保つためのヘリウム冷却システムの講義についてはできるだけ初歩から始め、実習も基本的な知識で理解できるようなものとしました。
また、超伝導加速器の施設見学を行い、超伝導加速器の知識と体験が結びつくようにしました。液体窒素はまだしも、液体ヘリウム、特に超流動ヘリウムは、日本の大学の学生さんでも直接見る機会は少ないので、ガラス製の低温容器を用いた超流動ヘリウムのデモンストレーションは、実際に自分の目で超流動ヘリウムを見ることができ、非常に興味を引いたようです。また、最新の研究テーマの一つとして、重力波検出器についての講義も行い、低温工学が超伝導加速器以外の分野でも必要とされていることを紹介しました。
KEKでの講義や実習、施設見学以外にも、東京の日本科学未来館、つくば市内の宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターと産業技術総合研究所地質標本館、そして、つくば市に隣接する牛久市の牛久大仏の見学も行いました。研修の最後に、招へい者の復習と発表訓練、プログラムに対する感想や意見の収集を兼ねて、招へい者一人一人に講義内容のまとめの発表をしてもらいました。発表スライドのデザインも凝っており、また、発表準備の時間がほとんどなかったにも拘らず、発表内容が良く纏まっていました。
招へい者のアンケート回答や引率者からの意見では、このプログラムに満足いただけたようです。超伝導や低温の実習はもちろんのこと、KEKの施設見学が意外と好評でした。新型コロナウイルスの影響で必ずしも計画通りにプログラムを行うことができませんでしたが、来年度以降は新型コロナウイルスの影響もなくなると思われますので、プログラム自体の改善も含めて、より良いプログラムを行いたいと思います。