2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第117号 (Bコース)
実験と解析による形状記憶合金の破壊機構解明
~グローバルな共同研究の実現を目指して~
愛知工業大学からの報告
さくらサイエンスプログラムにより、2023年2月20日から3月12日までの3週間、セルビア共和国のクラグイェバツ大学からVladimir Dunić(ウラジミール・デュニッチ)准教授1名を招へいし、受入れ機関である愛知工業大学工学部機械学科の松井良介准教授とともに「実験と解析による形状記憶合金の破壊機構解明」に関する共同研究の推進に向けた取り組みを行った。
Dunić准教授は応用力学(工学の様々な力学現象を取り扱う学問)を専門とする研究者であり、特に有限要素解析(力や変形、熱等のコンピュータシミュレーション)に関して多くの実績がある。形状記憶合金の力学的な特性についても既に松井准教授と共著で学術論文を発表している。一方で、愛知工業大学の機能材料研究室では、10年ほど前から形状記憶合金の高機能化や応用に関して、主に実験的な研究を行ってきている。既に両者の経験や知見を補完し合うことについて合意形成が図られている中、本プログラムでは具体的に今後の共同研究のあり方を模索し、より強固な関係を築いて相互の連携を高めることを主要な目的に据えて活動を行った。そのためにはDunić准教授に日本の産業やその歴史、文化等に触れてもらい、日本に関する興味関心を高めてもらうことも必要と考え、プログラム内容を計画した。これに加え、同研究室の学生メンバーに対して国際交流機会を提供することも大切な目的である。以下に主要な活動について報告する。
■ 研究室紹介と実験
機能材料研究室の実験設備を紹介すべくツアーを行った。また、当研究室で行っている実験の一部について、実演を交えながら紹介した。より詳細に実験内容を知っていただくため、Dunić准教授にも形状記憶合金ワイヤの疲労試験を行っていただいた。実験方法等の説明は学生メンバーが中心になって行った。英語で意思疎通を図ることの難しさや大切さを身をもって経験することができた。
■ 形状記憶材料国際セミナーと研究ディスカッション
形状記憶材料国際セミナーでは、まずDunić准教授からセルビア共和国の歴史や文化、これまでの研究内容について説明していただいた後、松井准教授から愛知工業大学の概要および機能材料研究室の研究紹介が行われた。リモートで参加した一部の学生も含め、多くの質問や意見が行き交うなど活発な議論が行われた。
研究ディスカッションは本プログラムの中で随時行った。直近で両者が行うべき研究課題を明確にし、将来的に解決すべきテーマについても方向性を確認することができた。研究ディスカッションには学生メンバーも積極的に参加し、国際交流を図りながら共同研究の推進に向けて熱心に取り組んだ。
■ トヨタ博物館見学
機能材料研究室は愛知工業大学・八草キャンパスにある。本キャンパスはトヨタ自動車が本社を置く豊田市に位置しており、ここは自動車産業が活発な地域である。そこで自動車を通して日本の産業の歴史を理解してもらうべく、トヨタ博物館を訪れた。トヨタ自動車の歴史に加え、国内外の自動車メーカーが自動車産業の発展にどのように取り組んだかを実車を見ながら学ぶことができた。また、特別展示として歴代ラリーカーの展示コーナーも設けられており、大変貴重な経験ができた。
■ 北九州市立大学の訪問とTOTOミュージアム見学
北九州市立大学の長弘基准教授と佐々木卓実准教授のもとを訪れた。両先生の研究室でもかねてより形状記憶合金の応用について研究をされており、その内容に関するセミナーの開催と実験設備の見学を行った。愛知工業大学から機械学科の武田亘平准教授も同行した。セミナーではDunić准教授の研究紹介に加え、北九州市立大学の学生メンバーの皆様からも研究発表があり、活発な議論が交わされた。
北九州市では同市に本社を置くTOTO社のミュージアム見学も行った。トイレや台所の衛生状態を改善すべく改良を重ねてきた同社の歴史や最新の技術等について、多くの展示品を見ながら学ぶことができた。この機会を通して自動車とは別の視点から日本の産業について知っていただくことができた。
■ 本プログラムの効果と今後の展望
本プログラムを活用して海外の優秀な研究者を招へいできたことは大変意義のあることと認識している。Dunić准教授と実施主担当者の得意とする研究分野が異なっており、これから互いに補い合いながら共同研究を進めることが期待される。またDunić准教授が特に欧州に広い人脈を持っていることから、この人脈の中に実施主担当者が加わることによって今後幅広いネットワークを築くことにつながる。一方では、日本の他大学への訪問によってDunić准教授にとっても日本においてネットワーク構築のきっかけになった。
また、実施主担当者はもちろん、サポートした学生においても研究や文化において国際交流を深めることができ、国際意識の向上を図ることができた。