2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第107号 (Aコース)
持続可能性と健康を両立する都市の実現に向けた日中連携型研究教育体制の模索
中央大学からの報告
上海理工大学を対象とする今回のさくらサイエンスプログラムは、スマートシティ関連技術と、都市環境の持続可能性や人間のウェルビーング向上との接点に注目した視察を行った。例えば、羽田イノベーションシティの見学では、災害から街を守る技術や交通システム等に関連する最新技術を、IOTやロボティクス技術を中心に視察した。コロナ禍のロックダウンにより、社会の変容を経験した中国の学生にとっては、自動運転などをはじめとする諸技術が、未来都市を考える上で非常に現実味を帯びていたことから、現地の技術者と盛んな議論が交わされた。
つくば市の建築研究所や防災科学技術研究所(NEID)の見学では、トルコの地震の直後であったことと、中国の急速な都市開発で高層ビルの建設が進められていることから、耐震構造を検証する大型の実験設備の意義や活用方法に関して、議論が深まった。そして、これまでの中央大学と上海理工大学の交流では、あまり触れられてこなかった環境に対する意識にも、大きく踏みこむことができた。例えば建築研究所では環境負荷を抑える様々な技術を集め、実証実験を行うために建設されたLCCM住宅を見学した。先端技術に加え、日本の住宅建築の伝統を生かした工夫や、両者の融合などを技術主任から詳細に説明頂いた。実際の住空間に直接手で触れ、可動部を自分達で動かして試すことで、LCCM住宅の全貌をよく理解することができた。
柏の葉キャンパスでは、世界最先端の植物工場を見学し、農生産の効率と食の安全保障、そして環境の持続可能性に関して、第一人者である千葉大学名誉教授の古在豊樹先生から直接ご説明頂いた。敷地内で運営されている3つの実証実験棟も視察し、未来の農業を待ち受ける課題と可能性に関して、非常にわかりやすく解説頂いた。予定の時間を一時間程度超過しても、学生と研究者の議論が続き、本プログラムの実施において、学生に最も印象深い見学となった。
そして今回の交流計画では、翌月の2023年3月に上海理工大学に短期留学を予定する中央大学理工学部の学生10名との事前交流も実現した。予習課題として、上海の歴史と文化に関する図書(「上海—多国籍都市の百年(榎本泰子 著)」)を読んだ上で、現地で実際に訪れる場所や、参加するアクティビティに関して、上海理工大学の学生と意見交換を行った。また短期留学予定の学生も含め、中央大学理工学部に設置されている上海理工大学東京事務所にて、さくらサイエンスプログラム修了証授与式を執り行うとともに、次回の展望を話し合った。今回の交流では、スマートシティを糸口として、都市の持続可能性を向上させる諸技術を視察した。快適な住環境の実現や食の安全保障など、人間のウェルビーング向上に関連する諸課題と、都市環境の持続可能性の両立に関しては、更に知見を深めて行きたいという要望が多く寄せられた。今回のテーマに関連する技術を広い視野で捉え直した上で、建築デザイン、農生産技術、医療と介護、健康科学等の中から、更に深めたいテーマを選定する提案がなされた。
今回、上海理工大学を日本に招いて行ったさくらサイエンスプログラムは、コロナ禍が始まって以来、上海理工大学が現地対面にて行った初の日中交流であった。特に学部1~3年生は、現地対面にて国際交流が叶わない中で高等教育を受けてきた世代であり、今回の交流計画の実施は非常に大きな意味を持つ。中央大学理工学部と上海理工大学は、短期留学プログラムとさくらサイエンスプログラムを通して、相互に学生と研究者の交流を測っており、大学という単位だけでなく、個別の研究室、教職員、学生の間での繋がりが拡大している。コロナ禍のような国際事情に翻弄されつつも、個と個の強固な繋がりの上に、組織や国同士の交流を継続することの大切さを認識することができた。