2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第104号 (Bコース)
縮小社会における自然資源利用を通した地域づくりに関する国際共同フィールドワーク
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科
准教授 大田 真彦さんからの報告
いわゆる日本の過疎地域では、人口減少や高齢化などを背景に、山林の荒廃や耕作放棄、ひいては獣害など、様々な問題が起こっています。一方で、そのような状況に対処するために、自然資源や生態系の新たな活用を通した地域づくりも行われています。本事業では、縮小社会における自然資源利用を通した地域づくりに関して、長崎県を対象に国際共同フィールドワークを実施しました。
2022年12月5日から12月16日の日程で、国立台湾師範大学から博士課程学生を3名(オランダ国籍、インドネシア国籍の学生を含む)、マレーシア・プトラ大学から教員1名、修士課程学生1名、および卒業生1名の計6名を招へいしました。
本事業は、Kudo et al. (2020) Translocal learning approach.の論文を参考にし、以下のように実施しました。まず、参加者は、インタビューなどを通して、ある取り組みについて学びます。その後、参加者がチームになり、自分の理解したことを対話形式で共有し合います。参加者の背景と地域性が異なっているため、同じものを見ていても、異なる解釈や学びを得ている可能性があります。そのような、他の参加者との対話や、「違い」からの気づきをノート等にまとめていき、積み重ねていきます。社会変革・改良のためのアイディアは、同質性の高い集団よりも、自分(たち)と異なる他者との出会いから生まれやすく、また、日本の地域社会も、本事業の外国人参加者の気づきから、利益を得られる可能性があるという想定に基づいています。
長崎県対馬市および西海市を対象としました。両自治体は共に、過疎化に直面する一方で、豊かな自然環境と資源を活用した地域づくりを実施しています。また、長崎大学が立地する長崎市にも滞在しました。以下が、訪問先・活動の概要です。
■対馬市(12月6日〜9日)
一般社団法人対馬里山繋営塾、一般社団法人MIT、一般社団法人対馬CAPPA、および一般社団法人daidaiを訪問し、農家民宿(農泊)やスタディツアーを通した教育、マルチステークホルダーによる森林資源の活用、海ゴミに関する環境教育、猪と鹿の資源活用などについて学びました。また、農泊や農家インタビューも体験しました。
■長崎市(12月10日〜12日)
長崎市で原爆記念館や大浦天主堂などを訪れ、平和学習・世界遺産学習を行いました。また、長崎大学にて、大学院水産・環境科学総合研究科環境科学専攻の教員たちと今後の教育・研究提携などに関し意見交換会を行いました。
■西海市(12月13日〜15日)
特定非営利活動法人雪浦あんばんねおよび西海市役所を訪問し、まちおこしと森林・林業分野での取り組みについて学びました。移住者へのインタビューや植林体験も行いました。
参加者は様々なことを実地で学び、また、ダイアローグを通しても、多くの気づきを得たようです。まず、対馬におけるツシマヤマネコを中心とした様々な取り組みなど、縮小社会における様々なアクションに関する知識を得ました。また、農泊体験や農家との交流を通じて、ホスピタリティを強く感じると共に、都市部でのホテル滞在では味わえない生活体験ができました。
Translocal learningの観点からは、例えば、対馬で出会った人々には、外部からの移住者でかつ博士号など高い学歴を有している人物が複数名いたところ、都市部で学術の世界にとどまるのではなく、社会のために貢献する情熱がすごいという声が多数ありました。ダイアローグでは、各国での研究者と社会の関係性や、都市と農村のあいだでの生活様式・教育機会の違いなどを共有しました。その上で、自分も博士号を取得した後、社会のために何事かを成したいという声が聞かれました。また、西海市雪浦地域でのキーパーソンが、社会変革における政治の重要性に言及したところ、ダイアローグでは、各国での政治のあり方について共有し、互いの国の状況から示唆を得ました。
今回ご対応頂いた団体・個人からは、このような国際的な集団に対して英語で対応する機会は少なく、グローバルなパートナーシップに目を向ける機会になった、ムスリムの視点を学ぶ良い機会になったという声を頂きました。
実施主担当者と参加学生は現在もオンライン上でやりとりを継続しており、今後、共同研究や教育連携に発展する可能性もあります。今後の様々な活動・連携の萌芽となりうる有意義なプログラムとなりました。