2022年度 活動レポート 第84号:長崎大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第084号 (Aコース)

水質汚濁が進んだ河川水から安全・安心な水道水を製造するための膜分離技術を学ぶ

長崎大学からの報告

 長崎大学大学院工学研究科水環境科学コースは、令和5年2月6日~2月11日にベトナムのフエ科学大学環境科学部からの合計9名(教員1名、大学院生4名、学部生4名)を長崎に迎え、「水質汚濁が進んだ河川水から安全・安心な水道水を製造するための膜分離技術を学ぶ」と題した科学技術交流事業を実施した。体験する先端的科学技術は、日本が世界トップのマーケットシェア及び技術力を誇る「膜分離技術」である。特に今回は直径1nm以下の孔を持つ多孔体であり、水分子以外のほぼ全ての物質が除去可能である逆浸透膜処理について重点的に技術体験を行った。

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水処理研究室内の実習:招へい者たちが膜の装填を行っている所

 本事業では、膜処理技術全般を講義・演習・見学を通して知ることができるプログラム構成とした。渡日1週間前には、招へい者に対して来日までのオンデマンド講義受講と課題レポート提出を依頼することで、来日後に学ぶ技術に対する理解の促進を図った。来日後は、ベトナムの有機物および窒素成分によって汚染された水道原水に対し、逆浸透膜を中心とする膜ろ過設備の基本設計演習を実施した。具体的には、目標水質(ベトナムの水道水質基準)を満たす水処理システム構成の考案、逆浸透膜ソフトウエアを使った膜エレメント使用数の決定、水処理排水の排水方法の考案、注入する薬品決定などであった。招へい者のほとんどは膜分離を含めた水処理技術をほとんど知らない状態で来日したが、水環境分野に対する知識はあったために技術の理解は早かった。

 実験室における実習では、膜分離実験を2名1組で実施し、実際に膜ろ過装置を触ることで膜分離技術の理解を深めると共に、膜ろ過流束を変化させた際の処理水質の違いを目にする機会を設けた。また、逆浸透膜ソフトウエアの使い方を習得し、原水の水質に応じて適切な膜の種類・膜ろ過運転条件・膜エレメント本数を自ら決定できるようになった。

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水処理研究室内の実習:招へい者たちが膜ろ過装置の説明を受けている所

 交流4日目には、佐世保市水道局の山の田浄水場を見学し、ベトナムに導入されていないセラミック膜ろ過設備および前処理の重要性などを学ぶ機会となった。当日午後には、協和機電工業株式会社の時津事業所を訪問し、開発部署や製造現場を見学して水処理に関わる事業の理解を深めた。

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佐世保市水道局山の田浄水場見学時の膜ろ過装置前の集合写真(右から4人目が受入れ担当者、その他招へい者9名)

 最終日のシンポジウムでは、一般社団法人産学官国際水環境技術推進協議会の会員からの事業紹介の後、招へい者によるグループ課題の成果発表を行った。成果発表には、フエ市における水道事業や直面している問題などの情報が含まれていた他、前日の見学で学んだ排水処理方法や製品を設計に取り込んでおり、招へい者自ら考えて設計を進めたことが良くわかった。以上のように本事業では、日本が世界に誇る最先端高度水処理技術である膜分離技術に関わる講義・実習・見学を行った。実質5日間の活動であったが、招へい者の成長および日本で学びたいという意識の向上が十分感じられたことから、非常に有意義なプログラムとなった。

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シンポジウムにおける招へい者による成果発表