2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第072号 (Bコース)
生体熱工学を応用した低侵襲医用技術に関する日本・インドネシア共同研究
九州大学からの報告
さくらサイエンスプログラムの支援を受け、2023年1月8日から1月26日までの19日間、B.共同研究活動コース「生体熱工学を応用した低侵襲医用技術に関する日本・インドネシア共同研究」を実施しました。招へい者は、インドネシアのセベラスマレット大学のAgung教授(引率者)、学生のPipinさん、Sukmoさんの合計3名でした。従来の機械工学に加えて、医学や生物物理学との学際的領域にある生体工学や生体熱工学に対する重要性はインドネシアでも増しています。このプログラムでは、九州大学の医用生体工学研究センターが牽引する本領域において共同研究の計画を策定するとともに予備実験を行うことで、この領域の研究に貢献しうるインドネシアの優秀な学生が日本へ留学することを促し、継続的な研究や交流を促進することを目的としました。
1月8日午後、3人は福岡国際空港に到着しました。引率者のAgung教授は日本をよく知る方ですが、学生2人は初来日です。どうやら雪を期待していたようで、福岡で雪、まして積雪はまれであることを知って落胆していました。日本で最初の食事となる夕食は鯛飯のお店に案内しました。小鉢がたくさん並んだ和のお膳を前に、スマホでたくさんの写真を撮りながらの食事になりました。
翌日から本学伊都キャンパスや研究室の見学、研究の紹介、プログラムの中で実施する研究の打ち合わせなどを行いました。1月10日には当研究室のゼミの中で、招へい学生2人がインドネシアで実施した卒業研究について発表をしました。また、研究室の見学については日本人学生に案内を担当してもらい、自身の研究や実験機器に関する説明をしてもらいました。
当研究室では、低侵襲がん治療に使える技術として高電圧パルスを使って細胞膜に微細な穴を開けて細胞を壊死させる不可逆エレクトロポレーションに関する研究を行っています。この研究開発には、熱工学などの機械工学的な視点と生物・医学的な視点の両方が必要です。招へい者にはこのような学際的領域の研究を体験して学んでいただきました。具体的には、細胞を三次元培養する方法、電気パルスを与えた後に蛍光染色して共焦点レーザー顕微鏡で観察する方法、液体試料の電気化学測定の方法、電界分布の数値シミュレーション方法です。
招へい期間内には週末が2度ありました。1月14日は学問の神様で知られる太宰府天満宮と九州国立博物館、翌15日は博多山笠で有名な櫛田神社を訪ねました。また、21日は明太子工場見学と臨海3Rステーション(ゴミ処理・リサイクル施設)見学を行いました。いずれも日本人学生たちにも同行してもらい、日本の文化や歴史について学びました。
期間の終わりが近づいた1月24日、10年に一度とも言われる強烈な寒波が日本に流れ込みました。福岡でも氷点下の気温になり、雪が舞い、積雪がありました。インドネシア人たちにとっては、諦めていた雪を経験することができたというプレゼントになりました。帰国前日の25日には本学椎木講堂内にあるレストランで歓送会を兼ねた意見交換会を行いました。また、学生それぞれが取り組んだ課題について成果発表をしていただきました。Pipinさんは「不可逆エレクトロポレーション研究で使われる液体試料の電気化学測定」について、Sukmoさんは「電極間距離が電界分布に与える影響に関する数値シミュレーション」について、プレゼンテーションしました。成果発表会の後、修了証と記念バッジ、日本人学生からのプレゼントが渡されてプログラムを終えました。
招へいした学生2人が非常に優秀であることはいろいろな場面で感じました。学生の1人は日本の大学院進学を希望しており、具体的な留学準備をしていました。また、もう1人に取り組んでいただいた実験が思いもよらない結果をもたらしてくれ、さらなる研究に繋がりそうです。引率者のAgung教授とは共同でレビュー論文の執筆を進めることができ、今後の協力関係を構築できました。招へいプログラムは当研究室の日本人学生にも非常によい影響を与えてくれました。当初は英語での会話に消極的でしたが、自分の実験を見学してもらったり土日の文化体験の小旅行に同行したりするうちにコミュニケーションに自信を持ち始めていることが伺えました。関係者全員にとって有意義なプログラムとなりましたこと、ご支援くださったJSTに感謝申し上げます。