2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第053号 (Bコース)
薬剤耐性菌に関するインドネシアとの共同研究を目指して
琉球大学医学部保健学科
教授 平井 到さんからの報告
「さくらサイエンスプログラム」への応募当時、コロナ以前には多くの国際便が飛来していた那覇空港国際線ターミナルは閉鎖状態でした。先行きが非常に不透明なコロナ禍で、それでも海外の研究者との交流を深めたいとの思いから、交流計画のテーマを「薬剤耐性遺伝子のデータ解析と薬剤耐性菌のモニタリングシステム開発に関する国際共同研究の計画立案」としてさくらサイエンスプログラムに応募しました。
交流計画テーマで扱った薬剤耐性菌とは、本来治療効果を示すはずの抗生物質が効かなくなっている細菌のことで、高齢者や体力が落ちた人が薬剤耐性菌に感染すると致命的なリスクとなることもあります。実際、2019年に報告された推計は、薬剤耐性菌と関連した何らかの要因によって年間約500万人が亡くなったとしています。薬剤耐性菌は人や食品の往来によって国や地域を超えて運ばれることから、国際的な協働によって取り組むべき公衆衛生上の重要な課題の一つと考えられています。そうした背景から、今回の研究者交流は非常に重要でした。
航空便の手配など、必ずしも十分に準備できたとは言えなかった点もあったかと思いますが、なんとか、2022年12月4日から17日の日程で本プログラムを行うことができ、3名のインドネシア人研究者を受け入れ機関である琉球大学医学部保健学科に招へいすることができました。
今回のプログラムでは二つの目的がありました。一つ目は、受け入れ機関の琉球大学医学部保健学科病原体検査学分野で開発された新たな薬剤耐性菌解析方法のインドネシア人研究者との共有で、もう一つの目的は、これら招へいされたインドネシア人研究者と国際的な共同研究を推進するための話し合いを持つことです。
招へいされたインドネシア人の研究者は政府機関で細菌の研究をされておられますから、基本的な細菌の解析方法はすでに習熟されています。そのうえで、新たな方向性からの薬剤耐性菌の解析方法を習得することができれば、現状、病院などの医療関連機関以外では、まったく整備されていない薬剤耐性菌を対象としたモニタリングシステム整備のための重要な技術的な基盤となることが期待できます。来日第1週目はこの新規解析法の習得のために受け入れ機関の研究室で実験を中心に行いました。具体的にはすでに分離してある薬剤耐性菌株を用いて、細菌DNAの抽出やその処理、解析機器(ナノポアシーケンサー)の取り扱い方などを中心に習得するような実験が組まれました。
来日1週目の週末には、沖縄の自然・文化に触れる目的で、沖縄県立博物館・美術館、首里城公園、やんばる国立公園内の沖縄島最北端の岬、辺戸岬を訪れました。インドネシアも沖縄と同じ島嶼域ではありますが、日本の他の地域とは異なる沖縄独自の自然・文化は多少なりとも、2週間の実験室内の活動の間の息抜きになったのではないかと思います。
来日第2週目は第1週目に取り組んだ薬剤耐性菌の解析方法で得られたデータのバイオインフォマティクス解析とその解釈のほか薬剤耐性菌を対象とした共同研究の研究計画やそのスケジュールなどの点に関する討議が行われました。
通常、国際共同研究を行うためには、研究組織を形成し、国際共同研究に参画する研究機関や研究者それぞれの研究計画における役割を明確にする必要があります。また、それぞれの国の状況や手続きは、短期出張やWEBミーティングでは十分には理解し合えないところも多々あることから、研究組織の形成や研究内容のすり合わせには時間と労力が必要です。
今回の研究者交流は日本−インドネシア両国の研究者間の深い相互理解に重要な機会となりました。今回のさくらサイエンスによるインドネシア人研究者の招へいをきっかけとして、今後、いくつかの研究プロジェクトがより強く推進されることが期待できる活動となりました。