2022年度 活動レポート 第51号:信州大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第051号 (Bコース)

コンテンポラリーダンスのローカリティー、民族舞踊から現代における芸術身体表現への変遷

信州大学からの報告

 2022年9月15日〜10月5日、さくらサイエンスプログラムにて、エチオピア出身、アイルランド在住のダンサー・振付家、ミンテ・ウォーデ氏の招へいを行いました。

 ミンテ氏との出会いは、2021年4月、コロナ禍での、アイルランドとのオンライン国際協働舞台企画にて紹介を受け、オンライン上で振付を行い、コラボレーション映像作品を共に創作したことに始まります。エチオピアの伝統舞踊の技術と感性をもち、欧州でコンテンポラリーダンスの領域でプロとして活躍するミンテ氏の素晴らしい個性と、創作に貪欲に挑んでいく姿勢には大変感銘を受けました。また自身のダンス・カンパニーを主宰し、その独自性について深く探究し、様々な方法論をリサーチ・考察している姿勢も非常に印象的でした。このような人材と是非、対面でお会いし、日本との交流事業を実施したい、と考えたことが、今回の招へい事業に進めたきっかけでした。

活動レポート写真1
©Hiroyasu Daido氏から提供

 今回のさくらサイエンスプログラムによる招へいは、国際的活動の可能性を広げ、独創的なダンス・シーンを展開している日本のダンサー、振付家や専門家と交流し、劇場などの公的機関の環境を視察することで、彼のアイルランドで行っているダンス活動をより活性化させていくための知見を深めてもらうことを目的としていました。プログラム内容は大きく3つの内容を中心として構成しました。

①日本のコンテンポラリーダンスの独創性に触れ、ダンス作品のクリエーションを経験することで、日本〜エチオピア〜アイルランドの舞台芸術における文化交流を深める。また日本人ダンサーと作業を共にすることで、振付を捉えていく作業方法について、互いに刺激を与え合う。

②日本の劇場や公的機関、ダンスに関わる専門家との交流により、地域社会でのダンス舞台作品の位置付けや意義を視察する。またエチオピア、アイルランドにおける、同じ問題意識について意見交換を行う。

③日本の伝統芸能や舞踊、儀礼に触れて、エチオピアの伝統舞踊とコンテンポラリーダンスの現在を考えると同時に、世界の伝統舞踊と現代の身体表現について共に考察すること。

 これらの方針からプログラムを組み、日本人ダンサーと様々な刺激を与え合い、ダンスクリエーションを共にし、最終段階として日本人とミンテ氏との共同作業によるダンス作品の成果発表を行う事業を企画しました。

活動レポート写真2
©Hiroyasu Daido氏から提供

 長野県の伝統儀礼についてのリサーチは、コロナ禍の影響もあり、オンラインでクローズドにより、遠山郷霜月祭り、火祭りの保存会の方々のお話に触れました。また、信州大学の学生に向けては、エチオピアの伝統舞踊のレクチャー、および、デモンストレーションをオンデマンド映像配信により実施し、多くの学生がアフリカの生活文化に触れ、多くの学びを得ることができ、多様なフィードバックを得ることができました。

活動レポート写真3
©Hiroyasu Daido氏から提供

 ダンスシーンを牽引する東京都内では、世田谷パブリックシアター、東京芸術劇場など、主要な劇場を視察し、地域社会における劇場の役割について、アイルランド、エチオピアとの違いや類似点などについて意見交換を行いました。

 また、ミンテ氏が日本人ダンサーやワークショップ参加者に対して、エチオピアの伝統舞踊のテクニックを提供し、それらがどのようにコンテンポラリーダンスの創作に生かされていくかについての共同研究を進めました。10月4日はその研究成果発表として、スタジオアーキタンツにてワークショップ&プレゼンテーションを行いました。参加者、鑑賞者、専門家の方々からは、エチオピアの伝統舞踊の多様性とそれらの動きから発展していく“対話としてのダンス”に、身体のコミュニケーションの開いたあり方から現代のダンスの可能性を強く感じるプレゼンテーションであった、など、好評をいただきました。

活動レポート写真4
©Hiroyasu Daido氏から提供

 ミンテ氏から、このような集中期間による共同研究が対面で実施されたことに、深い感謝の言葉をいただきました。また、日本の都市文化を中心とする現代の舞踊に注がれる独創的なアイデアや、身体を読み解く舞踊創作の姿勢に共感を覚え、また、地域ごとの土地の伝統文化の多様性に感銘を受けた旨、報告を受けております。JSTさくらサイエンスプログラムの実施者の方々への大きな感謝をお送りするとともに、次世代にも、このようなプログラムの体験をしてもらいたいと感じ、継続と発展を心から願う、とのことでした。

 実践・理論を融合した共同研究が、大変充実した形で実施可能となり、心から深く、感謝申し上げます。

活動レポート写真5
©Hiroyasu Daido氏から提供