2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第045号 (Cコース)
超伝導加速器用低温システムの基礎と応用
高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
教授 仲井 浩孝さんからの報告
新型コロナウイルスの影響で長らく招へいができなかったさくらサイエンスプログラムを3年ぶりに開催しました。今回のプログラムは、KEKの新型コロナウイルス感染対策本部の指導により、マスク着用や講義・実習中の換気、検温の実施など、従来の雰囲気とは異なった環境下での実施となりました。講義の最中も、窓を開け、サーキュレーターを作動させていたため、エアコンを入にしていても、インドからの招へい者には寒い思いをさせてしまいましたが、招へい者にも受入れ機関の職員にも新型コロナウイルス感染者を出さずに、無事プログラムを終了することができました。
2022年12月4日から13日までの10日間、インド共和国のインド工科大学カラグプル校(Indian Institute of Technology, Kharagpur)から、同校の低温工学センターや理学部物理学科に所属する低温工学に興味のある優秀な大学生および大学院生8名と教員2名の計10名を大学共同利用法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)に招へいして、加速器における超伝導や低温工学の利用についての講義および実習を行いました。インド工科大学カラグプル校は、インド国内の23州に設置されているインド工科大学の中で最初に設立された大学で、インド工科大学の中でも上位5校にランクされている大学であり、優秀な学生がインド各地から集っています。今回来日した招へい者は大学内で選抜を行って決めたそうです。同校からの招へいは今回が初めてとなります。
招へい者は大学で低温工学や超伝導についての講義を受け、知識はあるものの、超伝導加速器についての知識はないとのことでしたので、今回は超伝導加速器の重要な機器である超伝導磁石と超伝導高周波空洞、さらに、それらを超伝導状態に保つためのヘリウム冷却システムの講義や実習、超伝導加速器の施設見学を行い、超伝導加速器の知識と体験が得られる内容としました。招へい者の多くが低温工学センターに所属しているものの、液体窒素を実際に見る機会はあっても、液体ヘリウム、特に超流動ヘリウムは見たことがないという者がほとんどでしたので、ガラス製の低温容器を用いた超流動ヘリウムのデモンストレーションは、実際に自分の目で超流動ヘリウムを見ることができ、非常に興味を引いたようです。また、最新の研究テーマの一つとして、重力波検出器についての講義も行い、低温工学が加速器以外の分野でも必要とされていることを紹介しました。
KEKでの講義や実習、施設見学以外にも、東京の日本科学未来館、つくば市内の宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターと産業技術総合研究所地質標本館、そして、つくば市に隣接する牛久市の牛久大仏の見学も行いました。牛久大仏は仏教発祥の地・インドの方向に向かって立っており、インドからの招へい者には殊の外、印象が強かったようです。研修の最後に、招へい者の総復習と発表訓練、プログラムに対する感想や意見の収集を兼ねて、一人一人に講義内容のまとめを発表してもらいました。発表準備の時間がほとんどなかったにも拘らず、発表内容が良く纏まっており、彼らの学術的な能力を垣間見ることができました。
招へい者のアンケート回答や、帰国後に届いた引率者からの電子メールによると、皆、今回のプログラムに大変満足しており、超伝導や低温の実習、KEKの施設見学などが好評だったようですが、日本文化が印象的だったという回答もありました。今回のプログラムは講義と施設見学の順番等が有機的でなかった部分もあり、今後のプログラム編成の上での反省点となりました。