2022年度 活動レポート 第44号:静岡大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第044号 (Cコース)

International seminars; Diverse forest ecosystems around Shizuoka 2022

静岡大学からの報告

 2022年11月2日から9日まで「気候変動下での山岳生態系の管理技術 富士・南アルプス山岳地域の多様な植生・地学的環境における野外セミナー」 International seminars; Diverse forest ecosystems around Shizuoka 2022を開講しました。

 2011年に本セミナーを開講して以来、今年で記念すべき第10回目となりました。このうち直近の6回をサクラサイエンスプログラムにご支援いただいています。今回はインドネシア、タイ、マレーシア、スロベニアの4か国7大学から9名の学生とスロベニアから教員が参加しました。また本学の学生だけでなく新潟大学の学生が合同で参加しました。

 異なる国の学生が互いの文化を尊重しながら共同生活や森林観察に取り組むことで互いに刺激しあうことも大きな狙いで、日本人学生がシャイにならずに交流にも学びにも積極的に行動してくれたことを頼もしく思いました。

■前半 Field practice in Tenryu area forests

<1日目>

 天竜森林管理署のご協力を得て雲路国有林の皆伐更新地を見学し、シカ対策の現状を視察しました。さらに民有林経営として鈴木将之氏の森林を見学しました。氏の所有する森林の美しさとともに氏の森林経営に向き合う熱い思いや経営スタイルに一同感嘆しておりました。

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民有林視察:ヒノキ大木の下で

<2日目>

 照葉樹林を観察しました。熱帯の高標高地に分布する樹木と同属の種が多く分布するため馴染みのある学生が多いようでしたが、クチクラ層の発達する葉の構造には興味をひかれたようでした。自発的にサンプルを持ち帰りスケッチしていたタイ学生チームの熱心さに、参加学生の意識の高さを感じました。

<3日目>

 当演習林天竜ブランチで実施している単純同齢人工林のリハビリテーションの様子を見学しました。単純人工林から天然性広葉樹林に誘導する場合に、鳥を誘因することの重要性とそのプロセスに関心を持ったようです。小規模持続型択伐システムの見学では多様性保全と持続的経営の実行可能な両立に関して活発な議論が行われました。

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単純人工林の生態系リハビリテーション

<4日目>

 森林の水フラックス測定の現場を見学しながら、測定方法を学びました。さらに船明ダムを見学しながら山岳域の流域管理について学びました。静岡森林林業研究センターを訪問し、ヒノキ・スギの種子生産をビニールハウス内で行う閉鎖型採種園を見学しました。幼齢の樹木に着花促進する技術やそのメリットに質問が寄せられました。 

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閉鎖型採取園の視察

■後半(11月6日~9日)Field lectures in temperate forests around Mt. Fuji

<5日目>

 当演習林の南アルプスブランチを見学しました。幸運なことに、美しい紅葉がみられ参加者はその景観を楽しんでいました。種多様性の高い森林の成り立ち、ササの一斉枯死と樹木更新における意味、シカの植生に及ぼすインパクトについて学びました。またこの森林での様々な研究が紹介され、UAVライダーを用いた森林スケールでの多様な種で構成される林冠構造の測定の実演に興味をひいていました。

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多様性の高い温帯落葉広葉樹林視察

<6日目>

 国立環境研究所が行っている富士北麓のカラマツ林における二酸化炭素フラックスのモニタリングサイトを見学しました。冷温帯の針葉樹林を青木ヶ原で観察しました。

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カラマツ林CO2フラックスモニタリングサイト視察

<7日目>

 富士山宝永火口コースで樹木限界の生態的特徴や樹木限界の上昇トレンド・噴火履歴に伴う植生遷移や気候変動の影響について学びました。また富士特有の攪乱現象に伴う森林構造の変化について学習しました。富士山の大崩壊地である大沢崩れでは国土交通省富士砂防事務所の協力を得て、大沢崩れの土砂移動の特異的メカニズムや頻発する土石流のコントロールあるいは流木対策など、気候変動下の山地災害対策について学びました。参加者は朱に染まる富士山を眺めながら最先端の砂防技術を学んだことに満足していました。

<8日目>

 森林のリモートセンシングに必要な光反射スペクトルと樹木のストレスや生産力の関係についての講義を受けたのち、鳥山学部長よりセミナー修了証書の授与式が行われました。

 海外大学へのフィールド教育の10年の蓄積は、教育ノウハウの向上とともに出身地の自然環境・社会環境の異なる地域の学生が共に学び情報を交換し合うことの重要性を教えてくれました。さらに、この野外セミナーに参加したアジアの学生がそれぞれの国で森林科学の研究者や技術者として活躍し、セミナーにかかわった日本人研究者と交流を持っているという知らせを耳にすることは喜びです。「天竜・川根の地からアジアでの森林教育のネットワークを」、の思いが動き始めていることを嬉しく思います。このセミナー開催の意義を引き継ぎ、今後も継続できるよう願っています。

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学生研究発表会での交流